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ピピピピッ
ピピピピッ
「…んー………ん」
枕元で遠慮がちに朝を告げるアラームを、何とか布団から手を出して鳴り止ませた。
薄いレースカーテン越しに光が差して、茶色いフローリングをそこだけ明るく照らし出している。
起きなければいけない時間…までは実はもう少し余裕がある。アラームを止めた手を布団の中に再び引っ込めておれはゆっくり瞼を閉じた。
あと数分…。もう少ししたら、あの声がおれを起こしにやってくる。
平坦で感情の起伏が少ない、だけど時々面倒臭そうなあの声。
この世にたったひとつしかない喉から発せられる、空気の振動。
そのたったひとつがおれの名を呼ぶ貴重な瞬間。
その声がおれの名を呼んでくれたら起きるから、この温かく柔らかい小さな空間から這い出てもっと気持ちの良いその傍まで歩いていくから。
だからそれまでもう少しだけ、このままで…。
布団から半分だけ顔を出し、すうっと肺に朝の空気を取り込んで代わりにおれの空気を吐き出す。
僅かに揺らいだ部屋の空気がきらりと埃を舞い踊らせるのを、閉じゆく瞳がぼうっと捉えていた。
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