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10章
「あ、あなたはッ!?」
現れたラスグリ―ンの姿に、クリアは驚愕していた。
ラスグリーンは、そんな彼女に向かって、ニコニコと笑いながら手を振っている。
久しぶり、とでも言いたそうな顔をして。
何故彼がこんなところに?
しかも自分のことを助けるようなことを言っている。
信用できるのかどうなのか――と、クリアは思っていた。
だがストリング皇帝は、ラスグリ―ンを見ても特に興味を示さずに、立っているのがやっとのクリアへと斬りかかった。
不意をつかれた形となったが、クリアはなんとか刀を構える。
だが、彼女のボロボロの体では、とても皇帝のブレ―ドを受けきれそうにない。
……くっ!? まだ死ぬわけにはッ!?
クリアは殺されると思ったが――。
「こっちを無視しないでよ」
突然ストリング皇帝が吹き飛ばされた。
緑と黒が混じったスパイラル状の炎が、皇帝をクリアから引き離したのだ。
「緑と黒の炎……。もしかして君が帝国で噂になっていた、あの“緑炎の悪魔”かね?」
だか、着ていた帝国の軍服が焼け焦げてはいたが、ストリング皇帝にダメージはない。
それからストリング皇帝は、まだ火の粉がついている上着を脱ぎ捨て、ラスグリーンの前へと歩き出す。
ラスグリ―ンは、皇帝を見ながら自身の右手に緑の炎を纏わせた。
そして、その炎を満身創痍であるクリアの体に放つ。
クリアは何の反応もできずに、その全身を翡翠のように輝く炎に包まれてしまった。
ストリング皇帝は、その様子を見て片ほうの眉毛を上げ、首を傾げた。
「どうしたのかね? その娘を放っておけないのではなかったのか?」
ストリング皇帝の問いに、ラスグリ―ンはニコッと笑みを見せた。
「そうだよ。だからこうした」
ラスグリ―ンがそう返事をすると、緑の炎の中からクリアが現れる。
炎によって全身を焼かれたというのに、その体には火傷の1つもなかった。
それどころか、先ほど小雪と小鉄に自身の命を吸わせたはずの彼女の顔には、再び生気が戻っている。
クリア本人もそのことに驚いていた。
「傷は残っちゃったけど。それは我慢してね」
ラスグリーンは、両目を見開いて自分の体を確認しているクリアに向かい、両手を合わせて、頭を下げている。
おまけにウインクしながら、テヘッと舌も出していた。
「何故私を助けたのですか……?」
クリアは理解できなかった。
この男――ラスグリ―ンとは、アンの関係もあって歯車の街ホイールウェイで戦った。
互いに敵意剝き出しというわけではなかったものの、敵同士、いや少なくとも味方ということはないはず――そう彼女は考えていた。
「声が聞こえるんだ」
ラスグリーンは、笑みを浮かべてそう答えた。
そして、体をストリング皇帝のほうへと向ける。
「声……ですか……?」
「うん。妹の声がね。助けてもらったことに理由がほしいなら……う~ん、そうだな~。君はマナの友達、アンの仲間だろ? 妹の友達の仲間だから……って、それが理由じゃあダメかな?」
クリアはラスグリーンの言葉を聞いて、押し黙ってしまったが、すぐに表情をキリッさせて、彼の隣へと並んだ。
「その理由……信用します。それにこの男を倒すには、あなたの力が必要のようですしね」
クリアは、ストリング皇帝を睨み付け、ピックアップブレードで斬り裂かれた上半身の着物を脱いで、晒姿となる。
そして、2本の刀を構え直した。
ラスグリーンも身構え、全身から炎を出す。
その炎は、先ほどのクリアに放ったものとは違い、緑と黒が混じった激しい焦熱だ。
「ふむ、妖を従える娘と緑炎の悪魔か。まるで冥界にでも来てしまったかのようだな」
ストリング皇帝はそう鼻で笑うと、2本のピックアップブレードをクリアとラスグリーンへと向ける。
「だが、それもよかろう」
そう呟いたストリング皇帝の顔は、実に楽しそうだった。
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