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11章
クリアがラスグリーンと共に、ストリング皇帝と対峙していたとき――。
ニコとルーと一緒に進んでいたルドベキアは、大広間の近くまで来ていた。
「たしかこの辺だったよなッ!?」
大声で叫ぶルドベキアに向かって、肩に担がれていた2匹の電気仕掛けの子羊が鳴き返す。
ストリング城の廊下を走り続け、ようやく大広間の扉を見つけると、彼は扉を蹴り破って中へと入った。
大広間に入ったルドベキアは、床に倒れているアンと、頭を抱えて蹲っているマナ、キャス、シックス――。
そして、配線によって宙に拘束されたロミーと、小柄な男――グラビティシャド―を目にした。
「ビンゴ。どうやら間に合ったみてえだなッ!!!」
そう叫んだルドベキアは、グラビティシャド―に飛び掛かった。
斧槍ハルバードによる、放たれた弾丸のような突きだ。
グラビティシャド―は面倒くさそうに避けると、どうでもよさそうに言葉を発する。
「グレイ、しくじったみたいだ。……ねえママ。こいつ、どうする?」
「何がママだこの野郎ッ!! そんな奴どこにもいねえだろがッ!!!」
グラビティシャド―は避けながらボソボソと言っている言葉を聞きながら、ルドベキアは次の攻撃を繰り出していた。
右手で柄尻に近い側を握り、左手を前に出して支える構えから、左手の中で滑らせながら右手の力で突き出す。
槍を扱う者なら誰もが知っている基本的な刺突。
ルドベキアは、休む間も与えずに連続でその鋭い突きを続ける。
だが、グラビティシャド―はやる気のない顔で、その攻撃を避け続けていた。
「ル、ルド……」
倒れているアンが呻くように、ルドベキアの名を呼んだ。
今の彼女はグラビティシャド―の力――。
重力を操る能力によって、体を押さえ付けられていた。
ルドベキアは大広間に入った瞬間に、そのことを理解したのだろう。
きっと何かしらの力を使って、アンたちを動けなくしているのだと。
「待ってろよ。今すぐこいつをぶっ殺してやるからな」
ルドベキアの猛攻は続く。
だが、それでも彼のハルバードがグラビティシャド―に当たることはなかった。
グラビティシャド―がルドベキアの攻撃を避け続けていると、突然声が聞こえ始める。
「グラビティシャド―。あなたの力でこの男も押さえつけてやりなさい」
ルドベキアはハルバードを突きながらも、その声に戸惑う。
彼の頭の中にも、クロエの声は聞こえているようだ。
……なんだこの女の声はッ!?
いや、今はそんなことを気にしている暇はねえッ!!!
「おい、ニコ、ルー!! 他の連中をなんとかしてやれ!!!」
ルドベキアが言われ、ニコはマナ、キャス、シックスのところへと向かい、ルーは石の壁に打ち付けられたクロムへ向かって走っていった。
「でも、ママ。オレがこいつに重力をかけると、アン·テネシーグレッチのほうが自由になっちゃうよ」
「それは困るわね。じゃあ、何か別の方法はないかしら」
「てめえッ!! さっきから誰と話していやがるんだ!!!」
グラビティシャド―と姿の見えない声――クロエの声を聞いてルドベキアが怒鳴りあげたが、それでもハルバードは当たらない。
「そうだ! グレイとの約束を破ることになっちゃうけど、もう始めちゃいましょうか」
クロエの声がそう言うと、ロミーの体に巻き付いていた配線が動きだし始めた。
それはまるで触手のように、ウネウネと彼女の体へさらに絡みついていく。
「これよりデータの移行を始めるわ」
ルドベキアは何のことだがわからないが、横目で見る配線の動きを見て、これは不味い状況だと感じていた。
焦った彼は、さらに攻撃の速度を上げていったが、やはりグラビティシャド―には当たらない。
「クソッたれが!! 避けてばっかいねえで反撃してきやがれ!!!」
「……安い挑発」
ルドベキアの煽るような言葉を聞いても、グラビティシャド―はただ変わらず、面倒くさそうに躱すだけだった。
その間にもロミーの体や頭、全身へと次々に配線が差し込まれていく
「やめろ!!!」
だが、そのとき――。
クロムが立ち上がった。
そのクロムの額や顔には、浮きあがった血管で埋め尽くされた。
やがてそれが破裂し、血がダムに穴が開いたように噴き出している。
壮絶な痛みを耐えているのがわかるほど、クロムの表情は歪んでいた。
だが、それでも彼はハンマ―を手に握って、配線だらけとなったロミーへと飛び込んでいった。
「お前なんかにロミーをやるもんかッ!!!」
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