12章

1/1
前へ
/40ページ
次へ

12章

体が動くことを拒絶(きょぜつ)している。 だが、それでもクロムは(ちゅう)()らわれているロミーを助け出そうとしていた。 「クロム!? バカ野郎!! 無茶(むちゃ)すんじゃね!!!」 ルドベキアには、何故クロムがそんな状態(じょうたい)になっているのかがわからなかったが、その(すさ)まじい形相(ぎょうそう)血塗(ちまみ)れの顔をしている彼を見て、()まらず怒鳴(どな)りあげた。 クロムは、マナ、キャス、シックスと同じく自我(じが)のある合成種(キメラ)である。 したがって、その体内にある細胞(さいぼう)遺伝子(いでんし)が、()みの親であるクロエに(さか)らうなと言い、彼の行動(こうどう)阻止(そし)しようと(あば)れているのだ。 だが、それでもクロムは(ひる)まずに、体を制御(コントロール)していた。 「ああ、愛……愛なのね。やはりあなたが1番私に()ているわ。(うれ)しい……とても嬉しい」 壮絶(そうぜつ)苦痛(くつう)()え、自分の意思(いし)を押さえ込もうとする体に逆らうクロムを見たクロエは、恍惚(こうこつ)の声を()らした。 「うおぁぁぁッ!!!」 クロムは、(にぎ)っていた大人の背丈(せたけ)をも()えるハンマーを()り、ロミーの体を拘束(こうそく)している配線(はいせん)()く。 やがて自由の()となったロミーが、(しば)り付けられていた大広間の天井(てんじょう)から落ち、クロムによって抱きかかえられた。 「ロミー……無事でよかった」 顔中に血管(けっかん)()き上がった状態(じょうたい)のクロムは、まだまだ(いた)みを(あじ)わいながらもロミーを助け出せたことに安堵(あんど)の表情を浮かべている。 そこへ、電気仕掛(でんきじか)けの黒子羊(こひつじ)ルーも、()きながら飛びついてきた。 ロミーはまだ気を(うしな)ったままだったが、クロムとルーは彼女を取り(もど)せたことだけでも(うれ)しくて仕方(しかた)がなかった。 「これはマズイ……」 それをルドベキアの攻撃を()けながら、横目で見ていたグラビティシャド―がボソッと(つぶや)くと、大広間にいる者――全員の頭の中にクロエの声が(ひび)く。 「少々(しょうしょう)強引(ごういん)になっちゃうけど、データの移行(いこう)はまだ終わっていないわ」 すると、クロムによって引き千切(ちぎ)られた配線から光が(かがや)きだし、やがてその光は何かの(かたち)となって(あらわ)れた。 その光――いや、エネルギー体といったほうがいいのか、ともかくそれは人間の形をしていた。 「ママ……無茶をするね」 現れた光を見たグラビティシャド―がボソッと呟いた。 その人の形をしたものは、全身が(まばゆ)く輝いている光そのものであり、そしてとてつもなく力強さを感じさせるエネルギー体そのものであった。 「この姿は長く維持(いじ)できないけど、な~に、すぐに終わらせればいいわ」 エネルギー体から聞こえるデジタル処理(しょり)されたような女の声――。 その響きは、間違(まちが)いない、先ほどから頭の中に聞こえていたクロエの声と同じだった。 「うがぁぁぁッ!!!」 人の形をしたエネルギー体――クロエが、ロミーを抱くクロムに近づくと、彼の体はさらに悲鳴(ひめい)をあげた。 顔だけではなく、全身の血管が浮き出始め、それが破裂(はれつ)(そば)にいたルーは、彼に()れながら鳴くことしかできない。 クロエは、ロミーをクロムとルーから(うば)い、彼女の体を(ささ)えながら立たせた。 「さあ、始めましょうか」 そう言ったエネルギー体ことクロエは、まるで微笑(ほほえ)んでいる表情をしているようだった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加