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13章
ロミーを支えながら立たせたクロエは、彼女の頭を両手でしっかりと掴む。
輝くエネルギー体と姿を変えたクロエは、クスクス笑い、気を失っているロミーを見ながら時折、恍惚の声を漏らしていた。
「くッ!? ロ、ローズ……」
グラビティシャド―の重力を操る能力によって床に押し付けられたままのアンは、ただその様子を見て呻くことしかできなかった。
マナ、キャス、シックス3人も、体内で暴れる遺伝子や細胞には逆らえず、アンと同じように見ていることしかできない。
クロムは全身の血管が破裂し、血塗れになって倒れてしまっている。
今この大広間で自由なのはルドベキア、ニコ、ルー。
だが――。
「クソッたれが!! そこを退きやがれッ!!!」
「通せんぼ……ママの邪魔はさせない」
ルドベキアの前にはグラビティシャド―に立ちふさがり、ロミーのところまで辿り着けそうになかった。
ニコはマナ、キャス、シックスの傍で震えているだけ。
ルーは、人の形をしたエネルギー体――クロエへと飛び掛かったが、軽く払われてしまう。
「新しい肉体へデータを移行するわ。さあ、私を受け入れなさい」
クロエがそう言った瞬間――。
突然、ルーの体が発光し出した。
そして、それと同時にロミーの体も同じように光を放つ。
その光は、彼女の頭を掴んでいたクロエの両手を弾き、さらに輝き始める。
「こ、これは私を拒絶している? 何故、何故なの? グレイの調べで、私のデータとは拒否反応を起こさないはずなのにッ!?」
クロエ――人の形をした輝くエネルギー体は、表情ではわかりにくいが、そのデジタル処理されたような声を聞くに、驚きを隠せないようだった。
《ロミー、ロミー……》
気を失っているロミーに声が聞こえる。
「……誰だ? あたしを呼ぶのは……?」
《ロミー、動け……さあ、動くんだ。じゃないと……お前は……》
「わかっている。コンピュータークロエがあたしの体を乗っ取ろうとしているんだろう……。でも、無理……無理なんだ……」
気を失っていたロミーだったが、今自分が何をされそうになっているのかは把握していた。
だが、体が思うように動かない。
もうロミーは、自分には何もできないと諦めていた。
《大丈夫、大丈夫だ。おれはこのために作られたんだぜ。ロミーの体をあいつのモノなんかにさせない》
「お前は……誰なんだ……?」
ロミーが再び訊ねると、声の主はクスッと笑ってから鳴き声をあげた。
この鳴き声――。
ロミーはよく知っていた。
グレイに連れられ、ガーベラドームのあった雪の大陸でプラムの家に住むことになってからずっと聞いていた声だ。
「もしかして、ルー……なのか?」
ロミーの問いに、ルーはニヒヒと笑って返す。
それからルーは話を始めた。
この電気仕掛けの体は、ロミーの体に侵入するものから守るために作られたのだと――。
この日までずっと出番を待っていたのだと――。
それを聞いたロミーは叫ぶような大声をあげた。
違う、ルーはそんな道具でも機械でもない。
常に、ずっと、いつも一緒にいてくれる親友であり家族だと怒鳴りあげた。
「お前は違うのか!? たしかにあたしのワガママに付き合わせてばかりいたけど、お前もあたしと同じだろ!? お前もそう思っているんだろ!? なあルー!! 答えろよッ!!!」
《ロミー……》
ロミーとルーの間に沈黙が流れた。
それは、彼女にとって気が遠くなるほど長く感じられた。
何も答えてはくれないルー。
だが、しばらくすると子羊は、いきなり大笑いをし始めた。
ロミーは、そんなルーに何度も呼び掛けるが、電気仕掛けの子羊は笑うことを止めなかった。
そして笑い尽くすと――。
《ハハハ……ありがとな、ロミー》
「なんだよその言い方は……? 笑ってないでさっきの質問に答えろよ、ルーッ!!!」
《みんなと仲良くやれよ。特にアンはお前の姉ちゃんなんだからさ》
「そんなまるでサヨナラみたいなことを言うなッ!!!」
「じゃあな、ロミー。おれ……お前と一緒にいれて楽しかったぜ……」
「ルー、ルーッ!!! いくな!! いかないでくれぇぇぇッ!!!」
ロミーがそう叫ぶと、黒い豊かな毛で覆われた子羊ルーの姿は消えていった。
彼女は意識を取り戻し、そして目の前には――。
「この子のせいね。まったく手の込んだことをしてくれちゃって」
人の形をしたエネルギー体――クロエが、ルーの体を消滅させた光景だった。
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