14章

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14章

ロミーの目の前で消されていくルー。 その体を(おお)いつくしている(ゆた)かな黒い毛を一切(いっさい)(のこ)すことなく、クロエの(はな)つ光に(つつ)まれていった。 「小細工(こざいく)(ろう)するわね。まさかルーザー()のアイデア? それとも誰か別の人かしら?」 クロエはルーを消滅(しょうめつ)させると、少し考えてから、グラビティシャド―の能力によって重力をかけられているアンの姿を見た。 アンは、(ゆか)に体がめり込むほど()め込まれていたが、その目はクロエをじっと(にら)みつけている。 それからクロエは、次にルーと同じ姿をしている電気仕掛(でんきじか)けの子羊(こひつじ)――ニコへと目を向ける。 ニコは、人の形をしたエネルギー体であるクロエに見られ、ルーが消えてしまった悲しみと恐怖(きょうふ)を感じ、その身をビクビクとさせていた。 「これはちょっと不味(まず)いわね」 クロエは考えていた。 ロミーの体にデータを移行(いこう)することができなかった理由――。 それが、先ほど消滅させた黒いほうの子羊にあったのなら、当然白いほうの子羊を連れているアンの体も()っ取ることは不可能(ふかのう)であろうと。 まだ憶測(おくそく)(いき)は出ていないが、クロエはアンの体に手を出すのをやめる。 「とりあえず一度システムに(もど)るか」 人の形をしたエネルギー体――クロエは、クロムによって引き千切(ちぎ)られた配線(はいせん)(つか)んだ。 そして、それを自分の体に()し込む。 だが、クロエの思うようにはいかず、配線からシステムへと戻ることはできなかった。 どうやらルーが発動(はつどう)させたものは、ロミーの体を守るだけではなく、クロエ自体(じたい)に何かしらの機能停止(きのうていし)()いるものだったようだ。 「あらあら、このままじゃ私、さっきの黒羊と同じように消えちゃうわね」 だが、それでもクロエに(あわ)てた様子(ようす)は見られない。 まるで他人事(たにんごと)のように、今の体ではデータを維持(いじ)できないとクスクス笑っている。 「よ、よくもルーを……こ、(ころ)してやる……お前は優先(ゆうせん)(さい)優先で殺すッ!!!」 意識(いしき)を取り戻したロミーが、(こし)()びていた短刀(たんとう)――カトラスを(にぎ)って、クロエのへと斬りかかった。 ロミーのその顔は、ルーを(うし)った(かな)しみの(なみだ)でグチャグチャになっていたが、それ以上にクロエへの殺意(さつい)の色に()まっている。 義眼(ぎがん)(はげ)しく点滅(てんめつ)し、殺す、殺す、殺すと、今の彼女の頭の中は、その文字(もじ)()()くされていた。 「しょうがない……ホントにしょうがないなぁ」 ルドベキアに立ちふさがっていたグラビティシャド―。 彼は(つぶや)くように言うと、アンへ向けていた右手をロミーほうへと動かす。 すると、今度はロミーの体に重力が()し掛かってきた。 ロミーはクロエの目の前で、(ゆか)に深く()め込まれていく。 「もう少しだったけど、残念(ざんねん)ね」 クロエが、ロミーの()いつくばっている姿を見ながら、勝ち(ほこ)った顔を向けていた。 だが――。 「……いや、残念なのはお前のほうだ」 女の声が聞こえたと思ったら、雷鳴(らいめい)()(ひび)き、クロエへ稲妻(いなづま)(おそ)い掛かった。 人の形をしたエネルギー体を、(はげ)しく放出(ほうしゅつ)された電撃(でんげき)(つつ)む。 機械の(うで)(かざ)したアンが、大きく咆哮(ほうこう)。 その声を聞き、(くる)しんでいたマナ、キャス、シックス、ルドベキア、クロム5人が笑みを()かべる。 そして、(ふる)えていたニコが(よろこ)びの()き声をあげた。 「さあ、反撃開始(はんげきかいし)だ!!!」
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