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16章
それから、クロムの体を乗っ取ったクロエは、グラビティシャド―に向かって手をあげてみせる。
それが何かの合図だったのか、彼は今までロミーの翳していた手を下ろして、目の前にいたルドベキアから離れた。
すると、今までロミーを押さえ付けていた彼の重力を操る能力が解かれる。
ロミーは、冷静に自分の体の至るところを確認しながら、クロムの姿をしたクロエを見て、その身を震わせていた。
「……ママ、ホントにいいの?」
「ええ、ここまで頑張っているんだもの。ご褒美をあげないとね」
グラビティシャド―が不服そうな顔をしているせいなのか、クロムの姿をしたクロエは、そんな彼をなだめるような視線を送っていた。
「まあ、しょうがない……しょうがないね」
グラビティシャド―が何かブツブツと何か呟いているのを見て、クロエはクスッと笑う。
そして、クロエは再びアンたちと向き合う。
アンたちは、目の前にいるクロムの中身がクロエだとわかってはいるが、すぐには手を出せないでいた。
そんな歯痒そうな姿を見たクロエはもう一度クスッと笑うと、自身の髪型――クロムのトレードマークである銀白髪のポニーテールを解く。
クロムの年齢は10代前半――。
まだ見た目にも幼さが残る少年だ。
だが、クロエに体を乗っ取られたクロムの表情や仕草は、洗練された大人の女性の色気を漂わせていた。
元々中性的な顔立ちというのもあったが、今のクロムはまるで性別まで違うように見える。
「ちょっと準備運動もかねて私1人で相手してあげるわ。特別よ」
クロエはそう言うと、グラビティシャド―を自分の後ろに下がらせた。
そして1人で前へと進み、煽情的な姿勢で両腕を振っている。
「ほら、どうしたの? かかって来ないの? せっかく頑張ったご褒美あげているのに。もう、つまらないわね」
「その姿で、それ以上喋るな」
退屈そうな顔をしていたクロエに向かって、いつの間にかロミーが飛び掛かっていた。
クロムが鉄を打ち、作った剣――カトラスで、クロエの首を跳ね飛ばそうとする。
だが、クロエがふっと手を翳すと閃光が放たれた。
ロミーはその光で体を撃ち抜かれ、吹き飛ばされてしまう。
「あらあら、一番威勢が良かった娘が最初にやられちゃった?」
まるで小馬鹿にするような言い方をしたクロエの後ろで、グラビティシャド―が小声でブツブツと言いながら笑っていた。
アンは、クロエが放つ光を見て、両目を見開いていた。
それはマナ、キャス、シックス、ルドベキアも同じだった。
ニコもみんなのはるか後方から、震えながら驚愕していた。
「もしかして、今のでわかっちゃった? ええ、そうよ。これは彼……ルーザーが使っていた、木や大地、水など生命のあるすべてのものから気をもらう力、外気勁よ」
そう言ったクロエは、自分の右手をあげると、それを見ながらウットリとした表情をしていた。
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