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17章
クロエが翳した手から放たれた光に撃ち抜かれてしまったロミー。
それはアンたちが知っているルーザーの力だった。
何故クロエがルーザーの能力――気を放つ力を使えるのか?
アンたちはそのことで頭がいっぱいになっていた。
驚いている――。
いや、怯んでいるアンたちを見たクロエは、乗っ取ったクロムの体――その銀白の髪を弄ぶ。
そんな彼女の表情は、そんなことくらいで驚くなと言わんばかりの顔をしていた。
「……マナ、キャス。ロミーを頼む。あいつの傷を治してやってくれ」
アンがクロエを睨みながらマナ、キャスへ声をかけた。
2人は頷くと、先ほどクロエに吹き飛ばされたロミーの元へと走っていく。
後方にいたニコも、彼女たちと同じように、ロミーのところへ向かっていた。
少しは落ち着きを取り戻したかのように見えたアンだったが、まだ一歩も動けないでいる。
それは、クロエがクロムの体を乗っ取ったからというのもあったが、目の前で見たクロエの力に、何か底知れないものを感じていたからだった。
それは傍にいるシックスとルドベキアも同じ。
2人とも、表情を歪めて立ち尽くしているだけだ。
「さっきの光……ありゃ、ルーザーの専売特許じゃなかったのかよ?」
ルドベキアが、アンとシックスに訊ねるような言い方で、独り言を呟いた。
当然、2人は返事をしなかった。
たとえ、本当に訊ねられたとしても答えられはしなかったろうが。
「ちなみに、こんなこともできるわよ」
そう言ったクロエは、自身の髪を弄びながら、床を足でコツンと踏んだ。
すると、どうだろう地面が激しく揺れ始め、城の床を突き破り、土の壁が次々と現れ始める。
その土の壁は、まるで軍隊の兵士たちが順番に姿勢を正していくような――統制の取れた動きを見せた。
「こ、これは……クロムの……」
「ええ、そうよ。大地を操る能力。どうかしら? 私のほうがあの子のより上手でしょ?」
アンが声を出すと、クロエがそれに答えた。
そのとき、シックスが髪を弄っているクロエに、手に纏わせた風で作ったナイフを飛ばす。
それは、見事にクロエの肩を貫いた。
風のナイフが貫通したクロエの肩から、血が噴水にのように噴き出していたが――。
「いきなり不意打ちなんて、酷いじゃないの?」
その傷は泡立ち始めると、みるみる塞がっていく。
それを見てアンとルドベキアは、息を呑んだ。
「こ、こりゃ……あいつの……?」
「ああ、ストーンコールドの能力……自己再生だな。くッ!? クロエは合成種の能力は全部使えるってことか?」
シックスが2人にストーンコールドのことを訊ねると、ルドベキアが思い出すように説明を始めた。
そのクロエが今見せている再生する力は、ガーベラドームがあった雪の大陸で倒した、自我のある合成種――ストーンコールドの能力だと。
クロエの肩が完全に復元――元に戻ると、彼女はアンたちが訊いてもいないのに話を始めた。
今見せたストーンコールド、クロム·グラッドスト―ン、ルーザー以外にも――。
アンたちが歯車の街――ホイールウェイで倒したフルムーン。
ストリング帝国のローランド研究所にいた実験対象――ロンヘアの能力も使えると言う。
「まあ、当然よね。だって、みんな私が作った子供たちだし」
両手を大きく開いて、顎をあげるクロエ。
そして、その手の先――爪が次第に伸び始め、大広間の照明に照らされて妖しく光った。
……あの爪を刃物のように変える力はフルムーンと同じやつだ。
ロンヘア……彼の能力も使えるなら精神攻撃もできるのか?
アンはクロエの姿を見ながら考えていた。
こんな奴に勝てるのかと。
「さあ、気を取り直して始めましょう」
そう言ったクロエは、恍惚の表情を浮かべながら、その体をビクビクと震わせていた。
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