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18章
アンたちがクロエの力の前に動けないでいる頃――。
クリアはラスグリーンと共に、ストリング皇帝と戦っていた。
ストリング城の廊下は、すでに壁も天井も半壊状態。
それを見れば、激しい戦闘を物語っているのがわかる。
ラスグリーンが黒と緑色の混じったスパイラル状の炎を放てば、すかさずクリアが2本の刀――小雪と小鉄を振り、飛ぶ斬撃を繰り出す。
2人はストリング皇帝との戦うのに、接近戦では分が悪いと判断し、距離をとっていた。
だが、それでも――。
「無駄だよ。この程度では私は倒れん」
ラスグリーンが放つ炎もクリアが繰り出す斬撃も、すべて皇帝の持つ真っ赤な2本のピックアップブレードよって相殺されてしまう。
すでに消耗戦を覚悟していたクリアとラスグリーンだったが、ストリング皇帝は息も切らさず、汗の1つも掻いていない。
「ストリング皇帝……本当に人間ですか? ご年配の方にしては体力があり過ぎる気がするのですが」
「だよね。お爺ちゃんなのに、若い俺たちのほうが先にへばっちゃいそうだ」
ストリング皇帝とは反対に、2人の体力も精神力も、すでに限界が近づいているようだった。
それを見たストリング皇帝は、2本のピックアップブレードを床に突き立て、両手の掌を2人へと向ける。
そして、ゆっくりと手を合わせ、パチパチと拍手をし始めた。
クリアとラスグリーンは、それに何の意味があるかわからなかったが、身構えながら再び皇帝を2人で挟むような形で距離を取る。
ストリング皇帝の右にはクリア。
そして左へとラスグリーンがそれぞれ回った。
「2人とも素晴らしい、実に素晴らしい」
1人拍手を続けるストリング皇帝は、突然2人を称え始めた。
今までこれだけ戦闘を楽しめたことはない。
生まれて初めての経験だと。
皇帝の称賛を聞いたクリアは、怒りでその表情を歪めた。
一方ラスグリーンのほうは呆れて笑っている。
それから手を止めたストリング皇帝は、2人へある提案をする。
「クリア·ベルサウンド君、緑炎の悪魔君。どうかね? 2人とも私と共に世界を理想郷に変えないか?」
「なっ!?」
何の反応も見せないラスグリーンとは違い、クリアは思わず声が漏れてしまった。
そして、黙っていられなかったのか、ストリング皇帝に向かって声をかける。
「それはずいぶんと悪い冗談ですね。アンを始末しようとしているあなたの軍門に、私たちが下るとお思いですか?」
「まあ、話を聞きたまえ」
それからストリング皇帝は話を始めた。
自分は世界を統一するために戦っている。
それは誰も争うことのない平和の世にするためだと。
「ですが、あなたは国民――軍の者をウイルスで機械兵へと変え、従わない国の人たちを蹂躙してきたじゃないですか? それを知ってどうやって今の言葉を信じろと言うのです? そんな人間に平和と言われてもまったく響きませんよ」
クリアの反論――それを聞いたストリング皇帝は、俯くと次第に笑い始めた。
そんな皇帝の態度に、クリアはさらに表情を歪める。
「失礼した。では、クリア·ベルサウンド君。君に1つ訊ねたい。この荒廃した世界で、どうすれば人が安心して暮らせると思うのかね?」
「そ、それは……」
ストリング皇帝の問いに対して、クリアは答えを持っていなかった。
それは彼女が今まで生きてきて、世界がどうとか、平和がどうとかを考えたことがなかったからだった。
「答えられない……ということでいいのかね?」
ストリング皇帝に見つめられ、何も言えないクリアはただ表情を歪めることしかできなかった。
視線をクリアから穴の開いた天井――空へと移したストリング皇帝は、顔を上げて両目を瞑った。
「私には答えられる……。何せ、それだけのために生きてきたのだからな」
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