21章

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21章

グレイへとピックアップブレード向けたストリング皇帝。 その表情(ひょうじょう)は、先ほどクリアとラスグリーンと戦っていたときとは別物(べつもの)だった。 その使命感(しめいかん)()びた顔は、皇帝の()るぎない信念(しんねん)を感じさせる。 それを見て、ラスグリーンもストリング皇帝に続くように、グレイの前へと立つ。 「ちょっと待ってよ。この男は俺が()る。“こいつら”と()(ふか)いのはあんただけじゃないんだよ」 ラスグリーンがそう言うと、彼の全身(ぜんしん)から黒と緑色の(ほのお)()き上がる。 (はげ)しくうごめく黒緑炎(こくりょくえん)(まと)い、瞳孔(どうこう)の開いた両目(りょうめ)をグレイに向けながら、ラスグリーンは笑っていた。 そんな彼を見たグレイは、やれやれといった表情をしながらため息をついている。 そんな中――。 ストリング皇帝やラスグリーンとは(ちが)い、クリアは自分がどうすればいいのかわからなくなっていた。 「……リトルたち。私はどうすれば……?」 彼女は、両手(りょうて)(にぎ)った2本の(かたな)――小雪(リトル·スノー)小鉄(リトル·スティ―ル)(かた)りかけたが、精霊(せいれい)たちは主人の(まよ)いに何の答えもくれない。 クリアは、ただ()を食いしばって、その場で(うつむ)くことしかできなかった。 「ラスグリーン……今は君の相手をしている(ひま)はないんだ。悪いけど、そこの女性(ひと)と一緒に棄権(リタイア)してもらうよ」 (あき)れた顔をしていたグレイが、(きゅう)に言葉を(はっ)すると、突如(とつじょ)としてラスグリーンとクリアの目の前に、灰色(はいいろ)の空間が(あらわ)れた。 その(ちゅう)に開いた灰色の(あな)は、まるでブラックホールのように2人の体を飲み込み、あっという()にストリング城の廊下(ろうか)から消してしまう。 その様子を見て、(のこ)されたストリング皇帝が、その表情を強張(こわば)らせる。 「おい、シープ·グレイ。今のはなんだ? まさか2人を異次元(いじげん)にでも飛ばしたのかね?」 ブレードを(かま)え向かって行くストリング皇帝。 グレイはようやく手に持ったフルオートの散弾銃(ショットガン)――パンコア·ジャックハンマーの引き(がね)(ゆび)をかけた。 「さっきも言ったけど、あまり話している時間はないんだ。急いで(もど)らないといけないんだよ。ママが(しび)れを切らしてしまったら、今までのやってきたことがすべて無駄(むだ)になる」 そう言うと同時(どうじ)に、パンコア·ジャックハンマーが火を()いた。 だが、ストリング皇帝は飛んでくる弾丸(だんがん)すらも(たた)き落とせる動体視力(どうたいしりょく)剣術(けんじゅつ)(うで)を持っている。 散弾銃(ショットガン)を撃ったくらいでは、とても皇帝を(たお)せるとは思えなかったが――。 「くッ!? こ、これは一体どういうことだ!?」 目の前にいたグレイが()った弾丸は、ストリング皇帝の後ろから飛んできた。 間一髪(かんいっぱつ)(すんで)のところで身を(かわ)したつもりだったが、1発の弾丸は皇帝の(かた)貫通(かんつう)してしまう。 だが、すぐに姿勢(しせい)(ととの)え、戦闘態勢(せんとうたいせい)へと戻ったストリング皇帝がグレイのほうを見てみると――。 先ほどクリアとラスグリーンを消した灰色の穴――宙に空間が開いていた。 「そうか……私の(うし)ろに開けた空間に、撃った弾丸を転移(てんい)させたのだな」 「ご名答(めいとう)。さすがは俺が作った最強(さいきょう)人造人間(アンドロイド)だね」 「うん?」 グレイの言葉を聞いたストリング皇帝は、(きつね)につままれた顔をした。 ……なんだと? 今、私のことを人造人間(アンドロイド)と言ったのか? ストリング皇帝は、疑問(ぎもん)を持ちながらも得意(とくい)二刀流(にとうりゅう)でグレイへと斬りかかる。 だが、グレイは(ふたた)び灰色の空間を開き、その中へと消えると皇帝の背後(はいご)へと回っていた。 「何かの聞き間違(まちが)いかね? 今私のことを人造人間(アンドロイド)と言ったように聞こえたが」 「ああ、そうだよ」 「笑えん冗談(じょうだん)だな。元からふざけた男ではあったが、今のは最悪(さいあく)のつまらないジョークだ。それともあれかね? 私を前にして恐怖(きょうふ)でおかしくなってしまったのかね? シープ·グレイッ!!!」 そう言いながら斬りかかったストリング皇帝だったが、グレイはまた灰色の空間を開き、攻撃を()けて移動(いどう)していく。 「信じられないのなら、自分の肩の(きず)を見てごらんよ」 グレイに言われ、ストリング皇帝が先ほど弾丸が貫通した肩に手を()ばすと、手には電気に()れたときのような刺激(しげき)を感じた。 弾丸が貫通――傷を()ったというのに血は(まった)(なが)れていない。 それどころか肩に空いた穴の感触(かんしょく)(みょう)に冷たかった。 そして、とても人肌(ひとはだ)とは思えないほど(かた)く、まるで金属(きんぞく)にでも触れているような――。 「ま、まさか本当だというのか……? 私が……人造人間(アンドロイド)だと……?」 耳に入って来るバチバチした電流(でんりゅう)の音。 その音を聞きながら、ストリング皇帝の顔は次第(しだい)に青ざめていった。
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