22章

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22章

グレイの()った弾丸(だんがん)(かた)(あな)を開けられたストリング皇帝は、その傷口(きずぐち)()れて驚愕(きょうがく)していた。 (かた)(つめ)たい金属(きんぞく)感触(かんしょく)。 まさかグレイが今言った通り、自分の体が機械(きかい)でできた人造人間(アンドロイド)だったとは思ってもみなかったからだ。 「私が機械だっただとッ!? そんなバカな話があるか!?」 (はげ)しく取り(みだ)したストリング皇帝は、(にぎ)った2本のピックアップブレードを()り回して()りかかる。 その姿は、王として人々を(たば)ね、そして(さか)らう(てき)蹂躙(じゅうりん)してきた彼とは思えないものだった。 グレイは灰色(はいいろ)空間(くうかん)を開き、いとも簡単(かんたん)にその攻撃(こうげき)()けていく。 「こんな、こんなことがあってたまるか。私は(おさな)(ころ)から英才教育(えいさいきょういく)を受け、武芸(ぶげい)(まな)び、そして王となった。それは、それが私の宿命(しゅくめい)であり使命(しめい)だからだ!! この荒廃(こうはい)した世界を理想郷(ユートピア)に変えるため、誰もが不安(ふあん)なく()らしていけるために、私は生きているのだ!!! そんな私が人造人間(アンドロイド)だっただと!?」 言葉数と共に、次第(しだい)に激しさも()していくストリング皇帝の連撃(れんげき)。 だが、その(すさ)まじいまでの斬撃(ざんげき)がグレイに当たることはなかった。 「まるでジョージ·オーウェルの書いた小説に出てくる悪役(あくやく)が、フィリップ·K·ディックの話にすり替わってしまったみたいだな。レコーディ·ストリング……お前は優秀(ゆうしゅう)()ぎたんだよ。まあ、俺がそういう(ふう)に作ったんだけど」 グレイはヘラヘラとそう言うと、話を続けた。 ストリング帝国が建設(けんせつ)された理由(わけ)を――。 グレイは、ルーザーによってその体を(うし)ったコンピュータークロエに、ある進言(しんげん)をした。 人類(じんるい)にもう一度だけチャンスを(あた)えてもいいのではないかと。 クロエは、興味(きょうみ)(ぶか)そうに彼の話を聞いたそうだ。 「いいでしょう、私の(ひつじ)――シープ·グレイよ。この終末の後の世界(ポストアポカリプス)で、人々が間違(まちが)いを(おか)さず、正しくこの(ほし)恩恵(おんけい)と生きる者すべての生命(せいめい)感謝(かんしゃ)できたのなら、私は永遠(えいえん)(ねむ)ることにしましょう。だけど、人類は(かなら)ず私を眠らせてはくれないわ」 母――クロエの許可(きょか)()たグレイがまず考えたのは、絶対的(ぜったいてき)指導者(しどうしゃ)を人類に与えることだった。 人々を(みちび)き、さらに(もと)めるものと必要なものを理解(りかい)し、誰よりも能力(のうりょく)の高い人類の王を。 その作られた人造人間(アンドロイド)――指導者こそがレコーディー·ストリングだった。 だが、グレイが作った人造人間(アンドロイド)は、ただの指導者ではなかった。 彼が作った人造人間(アンドロイド)――ストリング皇帝は、人々の(のぞ)むまま成長していくようにプログラミングされていた。 その結果――。 ストリング帝国は世界中を蹂躙し、それに()(とな)える者たちが結成(けっせい)した反帝国組織(はんていこくそしき)が、世界中で台頭(たいとう)することとなる。 そこから人間同士の(あらそ)いが始まった。 戦局(せんきょく)はストリング帝国の圧倒的(あっとうてき)優位(ゆうい)ではあったが、当然それでも犠牲者(ぎせいしゃ)は出る。 その犠牲者を失くすため、人類の希望(きぼう)体現(たいげん)するストリング皇帝は、人間を機械へと変える細菌(さいきん)――マシーナリーウイルスを開発(かいはつ)。 それから世界中にあった反帝国組織は、バイオ·ナンバーとしてまとまり、さらに人間同士の戦争は激しいものとなっていった。 (いま)だに世界は、合成種(キメラ)という脅威から逃れていないというのに。 そして、結局(けっきょく)――。 すべてはクロエの思う通りの結果(けっか)となってしまった。 「すべてはクロエや貴様(きさま)(てのひら)の上だったというわけか……」 そう(つぶや)いたストリング皇帝は、(うつむ)いたかと思うと急に顔を上げた。 そして、再びピックアップブレードをで斬りかかったが、グレイはまた空間を開いて移動(いどう)し、当然()けられてしまう。 「貴様の話はよくわかった。ならば、ここからが私の本当の人生だ。そうは思わんかね?」 空間の中に消えたグレイが、再び現れた瞬間(しゅんかん)――。 ストリング皇帝は一瞬(いっしゅん)間合(まあ)いを()めて斬りかかる。 戸惑(とまど)うグレイは散弾銃(ショットガン)――パンコア·ジャックハンマーでブレードを(ふせ)いだ。 だが、パンコア·ジャックハンマーはその攻撃で破損(はそん)してしまい、もう弾丸を撃つことは不可能(ふかのう)になってしまった。 「……どうして出てくる位置がわかった?」 グレイがそう訊くと、ストリング皇帝は余裕(よゆう)の笑みを()かべた。 「さあな。君が私をそう作ったからじゃないかね?」
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