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23章
ストリング城内を1人の男が走っていた。
城の回廊で倒れていたストリング帝国の将軍ノピア·ラシックだ。
彼は暴走したアンに吹き飛ばされ、肋骨を折る重傷を負い、そのまま気を失ってしまっていた。
そんなノピアを、ストリング城内にある医療施設へと運んだのが、幼い双子――ジャズ、ジャガーのスクワイア姉弟だった。
ノピアは、スクワイア姉弟のおかげで一命は取り留めたのだが、彼が気がついたのはアンたちが戦闘を開始してからだ。
そのため、ともかく状況がつかめないノピアは、衝撃音がするほうへと向かっていたのだった。
「くッ!? さっきから不愉快な感覚が止まらん。しかも……1人2人という話ではない……一体何が起きている?」
右手で頭を抱えながら、周囲から感じるものを煩わしく思うノピア。
彼もアンやロミーと同じマシーナリーウイルスの適合者だ。
アンとロミーと違いがあるとすれば、ノピアは研究の結果からウイルスに侵食されずに(全身が機械に変わらず、自我を保てる状態)すんでいる――いわば、人工的な適合者である。
だが、それでもアンやロミー、そしてマナやキャス、シックス、クロム――自我のある合成種と同じように、Personal link(パーソナルリンク)――通称P-LINK――相手の心の中が見える能力を持っている。
ノピアは走りながら考えていた。
城内から多くの焦燥感を彼を感じる中、1つ――いや、2つだけ大きく不快感を感じるものがあった。
……この感じ。
まだアン·テネシーグレッチが暴れている可能性があるかもしれない。
だが、そうなるともう1つの反応は誰だ?
まさか、事態はもっと取り返しがつかない状況なのか……。
暴走したアンに、自分では歯が立たないとわかっていても――。
たとえ、それ以上の相手がこの先にいるとしても――。
ノピアは足を止めることができない。
それは、彼を庇って死んだリンベース·ケンバッカ―近衛兵長との約束だったからだ。
……リンベース。
俺のことを買い被っていたバカな女……。
お前は俺のどこを見て世界を救う男だと思ったんだ?
本当にバカな奴だよ……。
だが……こんな俺だが、お前の評価に少しでも近い男になってみせるさ。
そして、ストリング城の廊下に出たノピア。
そこでは凄まじい戦闘が行われていた。
「あれは皇帝閣下!? それと……もう1人シープ·グレイかッ!?」
ストリング皇帝はグレイへ、真っ赤に輝く2本のピックアップブレードを激しく打ち込んでいる。
それはまるで今は無き宗教――。
仏教における信仰対象である千手観音菩薩のように、ストリング皇帝の体から千手が見えるようだった。
だがグレイは、壊れた散弾銃――パンコア·ジャックハンマーを持って、すべて捌いている。
攻めているのはストリング皇帝だが、余裕がありそうなのはグレイだ。
そう思ったノピアは、当然皇帝に加勢しようと、廊下の壁に立てかけてあった金属の剣を手に取った。
……何故皇帝閣下とシープ·グレイが戦っている?
それにシープ·グレイは皇帝閣下と張り合えるほど強かったのか?
ノピアがそう思いながら、ストリング皇帝に手を貸そうとしたとき――。
「ノピア将軍、お目覚めだね」
そのグレイが放った言葉と同時に、先ほど感じた不快感が一層深まった。
だが、自らを奮い立たせたノピアはグレイへと向かっていく。
「シープ·グレイ!! こんなことで私は止められんぞ!!!」
そう叫び、斬りかかったノピアだったが――。
彼の目の前に突如現れた灰色の空間が、ストリング皇帝の胴体を飲み込み、その体をバラバラにしてしまった。
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