21人が本棚に入れています
本棚に追加
25章
シックスの体がクロエの拳を喰らい、宙へと舞った。
今のクロエは、クロムの――幼い少年の姿をしていうというのに、鍛え抜かれたシックスの巨体をいとも簡単に吹き飛ばす。
すかさずルドベキアが斧槍ハルバードで斬りかかるが、地面から先端の尖った土の壁が現れて彼を近寄らせはしなかった。
マナ、キャスは同時に炎――火球を、そして水を刃へと変え、クロエの頭へと向けて飛ばしたが――。
「ちょっと鬱陶しいわね。今はシックスの相手をしているのに」
マナとキャスが放った火球と水の刃で、顔面の半分が吹き飛んだクロエだったが、その顔の傷口からは泡が立ち始め、すぐに元通りに再生した。
そして、クロエはマナとキャスのほうを見つめると、2人は頭を締め付けられるような感覚に襲われる。
膝をついて苦しむ2人は、激しく絶叫。
クロエが、マナとキャスに仕掛けたのはテレパシーによる精神攻撃。
ストリング帝国のローランド研究所にいたロンヘアの持つ能力だ。
「邪魔をするなら先にマナとキャスからにしようかしら?」
「させるかッ!!!」
アンが叫びながらクロエへと飛び掛かった。
マシーナリーウイルスの影響で機械となった右腕から稲妻が迸る。
それがビリビリと激しく音を立てると、アンはクロエに向かって電撃を放った。
だが、クロエの指先にある――長い刃物のような爪がその電撃を受けて、相殺してしまう。
「なら、これならどうだ!!!」
そう叫んだアンの白い鎧甲冑のようだった右腕が、今は黒く変色し、禍々しいフォルムに変わっていった。
その肥大化した腕から輝く閃光が迸り、伸びた配線のようなものが、まるでそれ自体が生きているかのように動く。
以前ならば、体を侵食しそうだった黒腕が、今は完全にアンによってコントロールされているようだった。
「その黒い大きな腕……たしかストーンコールドを圧倒した力よね。いいわ……いいわよ。さあ、私に味あわせてちょうだい」
アンの黒腕を見たクロエは、ビクビクと身を震わせながら恍惚の表情を浮かべていた。
肥大化した黒腕から放たれた雷光が、クロエの全身を包む。
そして、その電撃による光が晴れると――。
「やった!! やったよ!!!」
マナが大喜びで叫んだ。
何故ならば、そこにはクロムの体を乗っ取ったクロエの――真っ黒な人型の消し炭が見えたからだ。
アンは息を切らしながら悲しい表情をしていた。
それは、いくら体を乗っ取られたとはいえ、クロムごとクロエを黒焦げにしてしまったからだ。
歓喜の声をあげたマナもそのことを思い出し、他の仲間――キャス、シックス、そしてルドベキアと同じように、言葉にできない痛みをその表情に見せていた。
「さあ、あとはてめえだけだ!!!」
その悲しみを振り払うように、ルドベキアが先ほどから突っ立ているグラビティシャド―に向かって怒鳴りあげた。
だが、それでもグラビティシャド―は何も言わずに黙ったまま――いや、むしろ呆れて笑っているように見える。
「てめえ、何を笑ってやがる!!!」
ルドベキアがそう叫んだ瞬間――。
黒焦げとなったクロム――いや、クロエの体が凄まじく泡立ち始めた。
「な、なんだと……?」
アンたちはその目を疑った。
それは当然だった。
何故ならば、消し炭となったクロエは、服以外の部分――その体を完全に復元させてみせたからだ。
再生したクロエの一糸まとわない姿は、中性的なクロムの容姿もあってか、まるで天使のように美しかった。
そんなクロエに向かって、グラビティシャド―が重力を操る能力を使い、彼女の手へと布のようなものを届ける。
「なかなか素敵だったわよ。でも、私には無駄だったみたいね」
届けられた布を羽織りながら、クロエはアンたちへ笑顔を向けた。
最初のコメントを投稿しよう！