25章

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25章

シックスの体がクロエの(こぶし)()らい、(ちゅう)へと()った。 今のクロエは、クロムの――(おさな)い少年の姿をしていうというのに、(きた)()かれたシックスの巨体(きょたい)をいとも簡単(かんたん)()き飛ばす。 すかさずルドベキアが斧槍(ふそう)ハルバードで()りかかるが、地面から先端(せんたん)(とが)った土の(かべ)(あらわ)れて彼を近寄(ちかよ)らせはしなかった。 マナ、キャスは同時に(ほのお)――火球(かきゅう)を、そして水を(やいば)へと変え、クロエの頭へと向けて飛ばしたが――。 「ちょっと鬱陶(うっとう)しいわね。今はシックス(この子)の相手をしているのに」 マナとキャスが(はな)った火球と水の刃で、顔面(がんめん)の半分が吹き飛んだクロエだったが、その顔の傷口(きずぐち)からは(あわ)が立ち始め、すぐに元通りに再生(さいせい)した。 そして、クロエはマナとキャスのほうを見つめると、2人は頭を()め付けられるような感覚(かんかく)(おそ)われる。 (ひざ)をついて(くる)しむ2人は、(はげ)しく絶叫(ぜっきょう)。 クロエが、マナとキャスに仕掛(しか)けたのはテレパシーによる精神攻撃(せいしんこうげき)。 ストリング帝国のローランド研究所(けんきゅうじょ)にいたロンヘアの持つ能力(のうりょく)だ。 「邪魔(じゃま)をするなら先にマナとキャス(あなたたち)からにしようかしら?」 「させるかッ!!!」 アンが叫びながらクロエへと飛び掛かった。 マシーナリーウイルスの影響(えいきょう)で機械となった右腕(みぎうで)から稲妻(いなづま)(ほとばし)る。 それがビリビリと(はげ)しく音を立てると、アンはクロエに向かって電撃(でんげき)(はな)った。 だが、クロエの指先(ゆびさき)にある――長い刃物(はもの)のような(つめ)がその電撃を受けて、相殺(そうさつ)してしまう。 「なら、これならどうだ!!!」 そう叫んだアンの白い鎧甲冑(よろいかっちゅう)のようだった右腕が、今は黒く変色し、禍々(まがまが)しいフォルムに変わっていった。 その肥大化(ひだいか)した腕から(かがや)閃光(せんこう)(ほとばし)り、()びた配線(はいせん)のようなものが、まるでそれ自体(じたい)が生きているかのように動く。 以前ならば、体を侵食(しんしょく)しそうだった黒腕(こくわん)が、今は完全にアンによってコントロールされているようだった。 「その黒い大きな腕……たしかストーンコールドを圧倒(あっとう)した力よね。いいわ……いいわよ。さあ、私に(あじ)あわせてちょうだい」 アンの黒腕を見たクロエは、ビクビクと身を(ふる)わせながら恍惚(こうこつ)表情(ひょうじょう)()かべていた。 肥大化した黒腕から放たれた雷光(らいこう)が、クロエの全身を(つつ)む。 そして、その電撃による光が()れると――。 「やった!! やったよ!!!」 マナが大喜(おおよろこ)びで叫んだ。 何故ならば、そこにはクロムの体を()っ取ったクロエの――()っ黒な人型の消し(ずみ)が見えたからだ。 アンは息を切らしながら(かな)しい表情をしていた。 それは、いくら体を乗っ取られたとはいえ、クロムごとクロエを黒()げにしてしまったからだ。 歓喜(かんき)の声をあげたマナもそのことを思い出し、他の仲間――キャス、シックス、そしてルドベキアと同じように、言葉にできない(いた)みをその表情に見せていた。 「さあ、あとはてめえだけだ!!!」 その悲しみを振り(はら)うように、ルドベキアが先ほどから突っ立ているグラビティシャド―に向かって怒鳴(どな)りあげた。 だが、それでもグラビティシャド―は何も言わずに(だま)ったまま――いや、むしろ(あき)れて笑っているように見える。 「てめえ、何を笑ってやがる!!!」 ルドベキアがそう叫んだ瞬間(しゅんかん)――。 黒焦げとなったクロム――いや、クロエの体が(すさ)まじく泡立ち始めた。 「な、なんだと……?」 アンたちはその目を(うたが)った。 それは当然だった。 何故ならば、消し炭となったクロエは、服以外の部分――その体を完全に復元(ふくげん)させてみせたからだ。 再生したクロエの一糸(いっし)まとわない姿は、中性的(ちゅうせいてき)なクロムの容姿(ようし)もあってか、まるで天使(てんし)のように美しかった。 そんなクロエに向かって、グラビティシャド―が重力(じゅうりょく)(あやつ)る能力を使い、彼女の手へと(ぬの)のようなものを(とど)ける。 「なかなか素敵(すてき)だったわよ。でも、私には無駄(むだ)だったみたいね」 届けられた布を羽織(はお)りながら、クロエはアンたちへ笑顔を向けた。
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