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26章
黒焦げから復活したクロエは、アンの喉元を掴むと興味深そうにその肥大化した黒腕を見つめる。
「それにしてもマシーナリーウイルスって、人体にどういう影響を与えているのかしら?」
「さあ、シープ·グレイに訊けばわかるんじゃない?」
アンを持ち上げて小首を傾げているクロエに、グラビティシャド―がどうでもよさそうに言った。
片手で宙へと掲げられたアンは、その喉元を掴んだ手を振りほどこうと再び電撃を放とうとしたが、クロエが彼女に向かってテレパシーよる精神攻撃を仕掛ける。
「ぐッ!? ぐわぁぁぁッ!!!」
アンの脳内に激痛が走る。
喉が擦り切れてしまうかと思うほどの絶叫。
その叫び声と共に、アンの肥大化した黒腕は、次第に元の白い機械の腕へと戻っていってしまった。
ニコは気を失っているロミーを抱いて、泣きながらその場で震えていた。
マナ、キャス、シックスの3人も、アンが見せた黒腕の力を持ってしても、クロエには通じなかったことに絶望を感じ、その場で立ち尽くしてしまっていた。
だが、そんな中――。
ルドベキアはアンを助けようとクロエに斬りかかっていった。
しかし、ルドベキアの斧槍ハルバードは、地面から現れた土と壁によって遮られてしまう。
それでもルドベキアは、諦めずにクロエへと向かって行く。
幾度となく道を塞いでくる土の壁を破壊し、ついにクロエに一太刀浴びせた。
だが、すぐに傷口が泡立ち始め、即座に再生してしまう。
「おい、てめえらもボサっとしてねえで手伝いやがれ!!!」
ルドベキアの怒鳴り声を聞いたマナ、キャス、シックスの3人は、我に返り、それぞれの力――自然を操る能力を放つ。
火、水、風が凄まじい勢いでクロエへと向かって行き、アンの喉元を掴んでいた手がついに離れた。
ルドベキアはその機を逃さずに、アンを抱きかかえて、突然ロミーとニコがいる方向へと走り出す。
「おい、てめえら聞けッ!!! この場から一旦退くぞ!!! クロエと戦おうなんて思うんじゃねえ!!! 全員逃げることだけ考えろッ!!!」
そして、アンを肩に担いだまま、ロミーとニコを拾って、大広間から出て行った。
ルドベキアの号令と共に、マナ、キャス、シックス3人も、彼らに続いて大広間を出ていく。
その様子を、グラビティシャド―は表情を曇らせて見ていた。
「あの男……ただの人間のくせにどうしてあんなに力強いんだろう?」
「それはね。彼が愛する者のために動いているからよ」
クロエは、そんなグラビティシャド―とは対照的に嬉しそうに身を捩じらせていた。
「う~ん、でもただの人間とこっちじゃ、月と豆電球くらいの差があるんだよ。そんなちっぽけな存在なのに、全く怖がっていないなんて……。ママがあれだけの力の差を見せたっていうのにさ。ホントどうしてだが、理解できない」
不愉快そうなグラビティシャド―のことを、クロエは赤子をあやすように声をかけた。
今のグラビティシャド―ではわからないかもしれないが、そういうタイプの人間もいるのだと。
「そう考えてみると、ルドベキアが一番厄介かもしれないわね」
クロエはそう呟くとコツンと床を踏んだ。
すると、揺れる地面から土の土台が現れ、グラビティシャド―と共にその上へと乗る。
「じゃあ、追いかけっこを始めましょうか」
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