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27章
大広間を出たルドベキア。
その後ろからマナとキャス、そしてシックスも続いていた。
「ねえ、ルド。逃げるっていってもどこへ行くの? このお城って今空を飛んでいるんだよ」
気を失っているアンとロミーを担ぎ、そしてまだ恐怖で震えているニコも抱えて走るルドベキアの横に並び、マナが声をかけた。
「俺とクリアが乗ってきた高速飛行船がある。そいつでとっととズラかるんだよ」
「あッ! ラヴ·ロミー号のことだね。クロム、ナイスネーミングセンスッ!!!」
「ホワイトファルコン号だッ!!!」
マナの言葉に、眉間に深く皺を寄せてルドベキアが怒鳴りあげた。
それは、この炎を操る赤毛の娘の緊張感のなさに、彼が苛立ったからだ。
大声を出されたマナは、しょぼくれながら走っていると、ルドベキアに抱えられているニコが励ますように鳴いた。
次にキャスがルドベキアの隣に並び、彼へ声をかける。
「クリアというのは、アンが言っていた歯車の街で出会ったという着物姿の婦人のことか?」
「ああ、今頃どうなってるか……あいつは今ストリング皇帝とやりあってるからな……」
ルドベキアがそう言うと、キャスの顔色が青ざめていった。
……ストリング皇帝が来ているのか?
アンからは、クリアは刀を使う剣士と聞いたが、おそらく皇帝が相手では……。
「大丈夫だよ!! クリアなんたらサウンドちゃんは無事に飛行船にいるみたい!!!」
そんなキャスの心を読んだのか、しょぼくれていたはずのマナが弾んだ声を出した。
キャスもルドベキアも、そんな彼女の顔を不可解な面持ちで見ている。
そんな2人につられてか、ニコまでも同じ顔をしていた。
「……おい、マナ。こんなときにふざけたことを言うな」
キャスが冷たく言うと、ルドベキアのほうは呆れた顔をしたまま何も言わなかった。
そんな2人を見たマナは、両手をブンブン振り始める。
「えぇ~信じてよぉ!! クリアなんたらサウンドちゃんはホントに無事なんだからッ!!!」
「なんでてめえにそんなことがわかるんだよ?」
「それはね。声が聞こえたの。あの人から……」
嬉しそうな表情で言うマナ。
キャスはそんな彼女を見て、どうしてマナが、クリアの無事を知れたのか理解できた。
大広間にいるときは気がつかなかったが、今は感じられる。
あそこにいた自分たち以外――。
1つはマナと近い波動を感じさせる。
そして、もう1つは彼女がよく知っている人物だった。
……この感覚。
まさか彼もこの城にいたのか……。
キャスが考えていると、シックスが後ろから飛んできた。
彼は風を操り、宙を自在に移動できる。
「あ~いいな、シックス。あたしも鳥さんみたいに飛びたい」
「マナは少し静かにしててくれッ!!」
今度はキャスに怒鳴られたマナ。
彼女は、先ほどと同じようにしょうぼくれた。
「飛行船があるなら外へ出られるところへ向かうほうがいいな」
シックスの言葉に全員が頷くと、後ろから土でできた土台に乗ったクロエとグラビティシャド―が追いついて来ていた。
それを見て皆、表情を曇らせる。
やはり、そんな簡単に逃がしてくれるはずがないと。
「お前たちは先へ行け。ここは俺が食い止める」
シックスがルドベキア、マナ、キャスへそう言うと、3人は激しく反論してきた。
「カッコつけてんじゃねえ!! さっき俺が言っただろうが!!! クロエと戦うなんて考えるなってよ!!!」
――ルドベキア。
「シックスひとり置いて行けないよ。それにアンが目を覚ましてそんなことをしたと知ったら、絶対に怒っちゃう」
――マナ。
「前に地下にある反帝国組織の基地で、そんなやりとりがあったな。そういうわけだシックス。その提案は却下する」
――キャス。
それぞれの言葉を聞いたシックスは、笑みを浮かべると、全身から激しく風を起こし、3人へ向かって放った。
後ろから突然巻き起こった風に、ルドベキアたちはそのまま遠くへと吹き飛ばされてしまう。
「なんてことをするんだ!!! 全員で逃げるんだぞ!!! お前だけ置いて行けるか!!!」
吹き飛ばされながら怒鳴るキャス。
シックスは大声をあげて、彼女に返事をした。
「俺のことは心配するな。いざとなれば、空を飛んで城から脱出できる。さっさと飛行船に乗り込め!!!」
風に運ばれ行くルドベキア、マナ、キャス。
シックスはそれを嬉しそうに見送った。
「シックス!! 絶対だよ!!! 絶対に絶対に死んじゃ嫌だよッ!!!」
マナが今にも泣きそうな顔で叫んでいた。
「おい、シックス!! 死ぬんじゃねぞこの野郎!!! もし死んだら殺してやるからな!!!」
ルドベキアも最後まで、口汚い言葉を続けていた。
「その犠牲的精神、献身的姿勢、利他主義とでもいうのかしらね」
ルドベキアたちの姿がもう見えなくなると、シックスの後ろにはクロエが立っていた。
クロエは土台から降り、ゆっくりとシックスへと近づいて行く。
グラビティシャド―はまだ土台に乗ったままだ。
どうやら、クロエ1人で全員を相手にするという話は、まだ継続中のようだ。
「あなたはどこでそれを教えてもらったのかなぁ?」
甘ったるい言い方で近寄ってくるクロエのほうを、シックスはゆっくりと振り向いた。
「捨てられていた俺を拾って育ててくれた人だ。俺はクロエじゃなく、その人のことを本当の親だと思っている」
「あらら、悪い子ね。じゃあ、ママが怒ったらどうなるか教えてあげようかしら」
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