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28章
勝負は一瞬で終わった。
ルドベキアたちが高速飛行船まで行く時間を稼ごうと、宙で身構え、守りを固めたシックスだったが、クロエが翳さした手から放たれた光の波動に、胸を撃ち抜かれてしまう。
シックスの巨体が地面にゆっくりと落下していき、やがてドスンと大きな音を立てた。
「……バカな奴。全員でかかっても勝てなかったのに、一人でママの相手ができるわけないじゃないか」
敗北したシックスの姿を見たグラビティシャド―が、そうポツリと言い、冷ややかな眼差しを向けていた。
クロエは、倒れたシックスの元へと近寄っていく。
そして、もう動けない彼の体を持ち上げ、無理矢理に起こした。
すでに虫の息であるシックスを見つめながら、クロエは穏やかに微笑んでみせる。
「ねえ、シックス。何かママに言いたいことはある?」
クロエに訊ねられたシックスは、苦しみながらも笑みを返した。
「ひとつ……クロエに感謝していることがある」
「あら! 何かしら?」
弾んだ声を出すクロエ。
シックスは血反吐を吐くと、彼女の顔をじっと見つめた。
「この風を操る力……この力のおかげで今まで多くの仲間……反帝国組織……家族を助けることができた……そして、今も……あいつらを……」
シックスの言葉を聞いたクロエは、大きくため息をついた。
彼女は明らかに呆れている。
その態度は、後悔なくやりきった男へ向けるにはあまりに無作法な振る舞いであった。
「もう死んでしまうみたいなことを言っているけど。あなたは死なないわ。だって、私の中で生き続けるのだから」
クロエはそう言うと、手を伸ばしてシックスの頭へ突っ込んだ。
赤い血が壊れた蛇口から出る水のように噴き出し、シックスはあまりの苦痛に絶叫する。
「ぐわぁぁぁッ!!!」
「男の子は泣かない喚かない」
クロエは、ハミングしながらシックスの頭の中を搔き出していく。
その頭からは、脳味噌の断片が、ボロボロと落ち始めていた。
そして、何かを掴んだのか、クロエはシックスの頭から手を抜くと、彼の巨体をポイっと投げ捨てる。
まるで中身を取ったプレゼントの箱を捨てるかのように。
「ふふぅ~ん、これこれ」
クロエがシックスの頭から取ったもの――。
それは、眩く輝いている小さな水晶の欠片だった。
その欠片は、血で真っ赤に染まってはいるが、穏やかな光を放っていた。
「さあ、これであなたも私と永遠に……」
そう呟いたクロエは、水晶の欠片を見つめ、自分の舌を這わすと艶やかに付いた血を舐めとっていく。
そして、その綺麗になった水晶を、自分の頭に指を突っ込んで開けた穴へと捩じ込んだ。
「ああ、いい……。彼が私の中に入って来るぅ……」
こめかみから流れる自分の血を舌で掬いながら、恍惚の表情で身を捩じらせるクロエ。
「あなたも感じて……私の命を……ねえ、狂ってしまうほど脈打っているのがわかるでしょ?」
そう語り掛け続けるクロエの周りには、彼女を包むように風が巻き起こり始めていた。
――飛行船へ向かうルドベキアたち。
シックスの反応が消えたことに、マナとキャスは気が付いていた。
それは、自我のある合成種とマシーナリーウイルスの適合者だけが持つ力――。
Personal link(パーソナルリンク)――通称P-LINKによって、たとえ離れていても彼のこと感じていたからだった。
走りながら涙を流すマナを見たキャスは、突然立ち止まる。
「お前たちは先へ行け……次は私の番だ」
そう言ったキャスは、気丈に振る舞っているように見えるが、その体は震えていた。
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