2章

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2章

(あら)れたグレイの(そば)には、1人の小柄(こがら)な男がいた。 その男の(かた)には、ストリング帝国の軍服(ぐんぷく)を着た少女――ロ―ズ·テネシ―グレッチことロミ―が(かつ)がれている。 アンは気を(うし)っている(いもうと)の姿を見て、表情をしかめた。 彼女はそのまま前に出る。 すると、クロムがその男に向かって、突然怒鳴(どなり)りあげた。 「ロミーに何かしたのなら(ゆる)さないよ!!!」 クロムに食って()かられた男は、面倒(めんどう)くさそうな表情をし、口の形を(ゆが)めた。 クロムは大声を出し続け、背中(せなか)背負(せお)っていた大人の背丈(せたけ)をも()える大きなハンマーを(にぎ)る。 「まあまあ。気持ちはわかるけどさ。少しは落ち着いてくれよ、クロム」 今にも飛び掛かろうとするクロムに向かって、グレイが(おだや)やかな笑みを()かべた。 彼は笑顔のまま、とりあえず話を聞いてほしいと、アンたち向かって言う。 「まずは初めましての人もいるから、自己紹介からしよう。俺はシ―プ·グレイ。君らの友達であるアンの保護者(ほごしゃ)ってところかな」 アンたちの中で、グレイと会ったことがないのは、マナ、キャス、そしてシックス――。 だか、3人はアンからグレイのことは聞いていた。 「ご丁寧(ていねい)にどうも。あんたのことは聞いている。俺の名は……」 「いやいや、いいよいいよ。君らのことはよく知ってる」 シックスが名乗(なの)ろうとすると、グレイがそれを(さえぎ)って止めた。 そして、グレイはマナ、キャス、シックス3人の名をそれぞれ言い当てていく。 「何故あなたが私たちの名を知っている?」 「ねえ、変だよね。だってあたしたちって“初体験(しょたいけん)”なのに」 「それを言うなら“初対面(しょたいめん)”だぞ、マナ……」 キャスがグレイに(たず)ねると、マナも会話に入ってきて、そして彼女は言い間違(まちが)いした。 キャスは(あき)れながらも指摘(してき)注意(ちゅうい)されたマナは、テヘッと笑ってペロッと(した)を出す。 そんな2人を見たグレイは、さらにニコッと笑った。 「夫婦漫才(めおとまんざい)をありがとう。君らはいつもそうなのかな」 「メオトマンザイ? なにそれ?」 首を大きく(かしげ)げながら、不思議そうな顔しているマナ。 そうしていると、いつまでも説明(せつめい)のないことにしびれを切らせたクロムが、握っていた大きなハンマーをグレイに向ける。 「話をする前に、早くロミーを(はな)してよ!!」 いつもマイペースでニコニコしているクロムにしてはめずらしく、彼は感情的になっていた。 それは無理もないことだ。 ロミーは彼にとって思い人であり、家族であり、何よりも半身(はんしん)なのだから。 「まあまあ、(あわ)てないで。彼のことも紹介しておきたいんだ」 そう言ったグレイは、ロミーを担いでいる男に向かってグイッと親指(おやゆび)()き立てた。 クロム、グレイを無視(むし)して動き出そうとしていたが、シックスがそんな彼の肩を(たた)いて首を横に()った。 そのシックスの顔は、今は状況(じょうきょう)がわからない、もう少し様子(ようす)を見るべきだと、(うった)えているようだった。 シックスから無言(むごん)のメッセージを受け取ったクロムは、()を食いしばって、(ふたた)びロミーを担いでいる男を(にら)みつける。 「彼の名はグラビティシャドー。コンピュータークロエが生み出した、君らや俺と同じ自我(じが)を持つ合成種(キメラ)さ」 「な、なんだとッ!?」 「え、えぇっ!?」 「本当かッ!?」 その紹介を聞いて、キャス、マナ、シックスが驚愕(きょうがく)の声をあげた。 グレイは(おどろ)いている3人へ目を向けながら話を続ける。 このストリング城――いや、ストリング帝国自体(じたい)が、コンピュータークロエの指示(しじ)によって、グレイが作ったものであると。 「なるほどな。それなら合点(がてん)がいく」 「ガッテンがいっちゃうの?」 グレイの話を聞いたシックスが納得(なっとく)すると、マナがまた大きく首を傾げて始めた。 そんな彼女にキャスが声をかける。 「合点がいくとは、理解(りかい)したという意味だ。私もシックスと同じでわかったぞ。何故この荒廃(こうはい)した世界でストリング帝国だけが高度(こうど)な科学力を持っていたのかをな。だが、まさかクロエがストリング帝国を作らせたとは……」 「しかも、アンの(さが)していた人物が、まさかクロエの……」 キャスとシックス2人が言葉に()まると、その場に静寂(せいじゃく)が流れた。 マナは状況がよく理解できず、キャスとシックスは黙ったまま。 そして、クロムは話を理解をするつもりもなく、ただロミーを担いでいる男――グラビティシャド―から目を離さないでいた。 「何故だ、グレイ……。まさか……お前はクロエに言われて私を……?」 今まで(だま)っていたアンが、グレイに向かって力のない声を出した。 弱々(よわよわ)しく、か(ぼそ)く――。 彼女は言葉を続ける。 「ずっと私のことを(だま)していたのか……? 合成種(キメラ)を生み出したクロエ……それから……私を助けて育てた……? ニコと私とグレイ……何だったんだ……私たちの生活は……? 答えてくれ……答えてくれよ、グレイッ!!!」 アンは(ひと)(ごと)のような、昔の暮らしを思い出すような様子で、最後にグレイに向かって(さけ)んだ。 アンのその叫びの後から――。 今までずっと笑顔だったグレイの表情から、笑みが消えた。 「それは俺には言いづらいな。それよりも今はママが君らと話したがっている」 「ママ……だと?」 「ああ、僕らは彼女をママと呼ぶ。もうわかっていると思うけど、コンピュータークロエが今から君らと話がしたいそうだ」
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