21人が本棚に入れています
本棚に追加
29章
シックスのときとは違い、ルドベキアはキャスの姿を見ることなく走り去っていく。
並んで走っていたマナは、彼が歯を食いしばっている顔を見ていた。
仲間の中で、最初にクロエから逃げることを選択したルドベキアではあったが、悔しくないはずがなかった。
何故ならば、この男は雪の大陸にあったガーベラドームの若くして王となった男なのだ。
当然プライドも高く、力だけがルールであるガーベラドームの荒くれ者たちをまとめる彼が、余程の理由がない限り敵前逃亡をすることはない。
だが、それ以上にマナには、彼が仲間を置いて逃げるという自分に、激しく憤っていることが伝わってきていた。
……ちくしょう。
本当にこれでいいのか?
クロエに勝てなくても、全員で死ぬ覚悟で挑むほうが正解だったんじゃねえのか……?
ルドベキアは、口から血を流しながら俯いていた。
彼に抱えられているニコが、そんな姿を見て小さく鳴いている。
「……ルド。あたしも残る……アンとロミ―、ニコをよろしくね」
突然立ち止まり、キャスのほうを振り返ったマナが、ルドベキアへと言った。
そんな彼女の行動に、ルドベキアも思わず立ち止まってしまう。
「てめえまで何言ってんだ!?」
表情を歪め、ルドベキアが怒鳴りあげると、反対にマナは穏やかな笑み返す。
「あなたが1番悔しいって……わかるよ。ルドってさ、口は悪いし、人を脅すような口の利き方だし、自分を強く見せたくってしょうがない人だもんね」
「こんなときになんだよ!! 俺に文句があんなら後にしやがれ!!!」
「でも、そんなあなたが逃げることを選んだ……。それは……みんなが死なない方法を考えた結果なんだよね」
微笑みながら言葉を続けるマナ。
ルドベキアは大声で怒鳴ってやりたかったが、何も言うことができなかった。
「シックスもキャスもそうだよ。なら、あたしも……あたしがやりたいことをやる。だから……行って……」
そう言ったマナは、全身に炎を纏わせると、キャスが立ち止まった場所へと向かっていった。
「どいつもこいつも……ああッ!! ふざけんじゃねえよ!!!」
残されたルドベキアは、大声で叫び、再び前を向き、高速飛行船を目指して走り出した。
悲しそうに鳴くニコと、気を失ったアンとロミ―を担いだまま。
――ピックアップブレードの光の刃を出して、それを構えているキャス。
そんな彼女の隣へ、体から炎を噴出させて飛んできたマナが並んだ。
「いいのかマナ? おそらくもう生きては帰れないぞ」
「ずいぶんと弱気なこと言っちゃって。らしくないんじゃなの、キャス」
マナはいつものハツラツとした笑顔を見せた。
そんな彼女を見て驚いたキャスだったが、大きくため息をつくと笑みを浮かべた。
「そうだな。私らしくなかった。だが……お前は捜している人がいると……」
キャスが話している途中で、マナは手を伸ばしてその言葉を遮った。
そして、キャスの目を見つめて言う。
「捜していた人……見つかったよ。さっきからずっと声が聞こえているから……」
マナの言葉を聞いたキャスは、そのことについてもう何も言わなかった。
ただ、2人とも互いに見つめ合うだけだ。
「……来たか」
キャスがそう言うと、2人へ突風が吹きつける。
そして、突然大きな竜巻が現れた。
「こ、これってシックスのッ!?」
「ああ、クロムと同じように奴に取り込まれたんだな……。さっさと姿を見せろ!!! お前にシックスの力は似合わない!!!」
激しく吹いていた強風が収まり、竜巻の中から人の姿が見せ始める。
「あら、次はあなたたちなの?」
それは、全身から風を起こして宙に浮いているクロエであった。
最初のコメントを投稿しよう!