29章

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29章

シックスのときとは(ちが)い、ルドベキアはキャスの姿を見ることなく走り()っていく。 (なら)んで走っていたマナは、彼が()を食いしばっている顔を見ていた。 仲間の中で、最初(さいしょ)にクロエから逃げることを選択(せんたく)したルドベキアではあったが、(くや)しくないはずがなかった。 何故ならば、この男は雪の大陸(たいりく)にあったガーベラドームの(わか)くして王となった男なのだ。 当然プライドも高く、力だけがルールであるガーベラドームの(あら)くれ者たちをまとめる彼が、余程(よほど)の理由がない(かぎ)敵前逃亡(てきぜんとうぼう)をすることはない。 だが、それ以上にマナには、彼が仲間を()いて逃げるという自分に、(はげ)しく(いきどお)っていることが伝わってきていた。 ……ちくしょう。 本当にこれでいいのか? クロエに勝てなくても、全員で死ぬ覚悟(かくご)(いど)むほうが正解(せいかい)だったんじゃねえのか……? ルドベキアは、口から血を流しながら(うつむ)いていた。 彼に(かか)えられているニコが、そんな姿を見て小さく()いている。 「……ルド。あたしも(のこ)る……アンとロミ―、ニコをよろしくね」 突然立ち止まり、キャスのほうを()り返ったマナが、ルドベキアへと言った。 そんな彼女の行動(こうどう)に、ルドベキアも思わず立ち止まってしまう。 「てめえまで何言ってんだ!?」 表情(ひょうじょう)(ゆが)め、ルドベキアが怒鳴(どな)りあげると、反対にマナは(おだ)やかな笑み返す。 「あなたが1番悔しいって……わかるよ。ルドってさ、口は悪いし、人を(おど)すような口の()き方だし、自分を強く見せたくってしょうがない人だもんね」 「こんなときになんだよ!! 俺に文句(もんく)があんなら後にしやがれ!!!」 「でも、そんなあなたが逃げることを(えら)んだ……。それは……みんなが死なない方法(ほうほう)を考えた結果(けっか)なんだよね」 微笑(ほほえ)みながら言葉を続けるマナ。 ルドベキアは大声で怒鳴ってやりたかったが、何も言うことができなかった。 「シックスもキャスもそうだよ。なら、あたしも……あたしがやりたいことをやる。だから……行って……」 そう言ったマナは、全身に(ほのお)(まと)わせると、キャスが立ち止まった場所へと向かっていった。 「どいつもこいつも……ああッ!! ふざけんじゃねえよ!!!」 残されたルドベキアは、大声で叫び、再び前を向き、高速(こうそく)飛行船(ひこうせん)目指(めざ)して走り出した。 (かな)しそうに鳴くニコと、気を(うし)ったアンとロミ―を(かつ)いだまま。 ――ピックアップブレードの光の(やいば)を出して、それを(かま)えているキャス。 そんな彼女の(となり)へ、体から炎を噴出(ふんしゅつ)させて飛んできたマナが並んだ。 「いいのかマナ? おそらくもう生きては帰れないぞ」 「ずいぶんと弱気(よわき)なこと言っちゃって。らしくないんじゃなの、キャス」 マナはいつものハツラツとした笑顔を見せた。 そんな彼女を見て(おどろ)いたキャスだったが、大きくため息をつくと笑みを()かべた。 「そうだな。私らしくなかった。だが……お前は(さが)している人がいると……」 キャスが話している途中(とちゅう)で、マナは手を伸ばしてその言葉を(さえぎ)った。 そして、キャスの目を見つめて言う。 「捜していた人……見つかったよ。さっきからずっと声が聞こえているから……」 マナの言葉を聞いたキャスは、そのことについてもう何も言わなかった。 ただ、2人とも(たが)いに見つめ合うだけだ。 「……来たか」 キャスがそう言うと、2人へ突風(とっぷう)()きつける。 そして、突然大きな竜巻(たつまき)が現れた。 「こ、これってシックスのッ!?」 「ああ、クロムと同じように奴に取り込まれたんだな……。さっさと姿を見せろ!!! お前にシックスの力は似合(にあ)わない!!!」 激しく吹いていた強風が(おさ)まり、竜巻の中から人の姿が見せ始める。 「あら、次はあなたたちなの?」 それは、全身から風を起こして(ちゅう)()いているクロエであった。
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