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30章
マナとキャスは左右に分かれ、クロエを囲むように飛び掛かる。
2人はシックスとは違い、自分たちから攻めるように見せ、ルドベキアたちが逃げる時間を稼ぐ作戦を考えた。
距離をとって攻撃を仕掛けば、少なくともクロエは、こちらの様子を見るため動かなくなるであろうと。
当然圧倒的な力の差があるクロエに、そんな方法が通用しないことはわかっている。
だが、たとえそれが焼け石に水だったとしても、1分でも、いや1秒でも仲間が逃げる時間をと、2人は思っていた。
「マナ!! 同時に行くぞッ!!!」
「うん!! オッケーだよ!!!」
キャスの掛け声と共に、2人は手をクロエへ向けて翳した。
彼女等の手からそれぞれ力――炎と水が放たれる。
左右から激しい猛炎と荒れ狂う津波のような水流がクロエへと襲いかかった。
だが、クロエの体から凄まじい旋風が舞い始め、2人が放った攻撃は、ストリング城――廊下の天井を貫いて空へと弾き飛ばされてしまった。
当然そうなる――。
マナにもキャスにも、そんなことはわかっている。
自分たちの力が、クロエに通用しないことなど端から承知の上だ。
だか、それでも2人は、クロエの気を散らすように動き回りながら、手を休めずに攻撃を続けた。
「意味のないことをするなぁ。さっき奴と同じだよ」
マナとキャスの必死の猛攻を見て、傍にいるグラビティシャド―が呆れていた。
宙に浮く土台の上で胡座をかくその姿は、勝てない相手に何故そんな無駄な抵抗をするのだろうと、理解に苦しんでいるようにも見える。
「ママのほうも遊びすぎだよ」
グラビティシャドーが、やる気のない声でクロエに言った。
すると、攻撃を続けていたマナとキャスのいた地面から、先端の尖った槍のような土の塊が飛び出してくる。
2人はなんとかこれを避けたが、そのせいでクロエに向かって放っていた炎と水が止まってしまった。
「あらあら、ストップしっちゃったわね。それじゃダメよ」
クロエが妖艶に微笑みそう言うと、キャスの右腕が刎ね飛ばされた。
そして、いつの間にかキャスの目の前にいるクロエ。
だが、キャスは悲鳴をあげることなく、残された左腕でピックアップブレードを握って斬りかかる。
クロエの頭から上半身までが、ブレードの光の刃によって真っ二つに切り裂かれた。
「素晴らしいわ、キャス。私の脳と心臓を狙ったのね」
だか、切り裂かれて顔が半分になったクロエは、嬉しそうに笑うと、キャスの胸に向かってその腕で突き立てた。
クロエの腕に串刺しにされたキャスは、血を吐き出すと、その覇気に満ちていた表情から生気が抜け、手足は力を失い、ぐったりとしていく。
すでに体が元通りに再生したクロエは、憔悴しきった瀕死のキャスを抱きしめ、彼女の頬に舌を這わせていく。
「あなたは私が作った子の中で1番美しいわ」
うっとりと、まるで極上の美酒に酔ったかのように、クロエはキャスに口へ自分の唇を重ねた。
次に、クロエは彼女の頭に喰らいつく。
そして、美しかったキャスの顔が、溢れる血で真っ赤に染まった。
「キャスも私の中で生き続けなさい」
クロエは口の周りを血だらけにしながらそう言うと、口に銜えた水晶を飲み込み、恍惚の表情となってその身を震わせている。
「うわぁぁぁッ!!!」
その隙を狙っていたわけではないだろうが、一瞬で間合いを詰めたマナが、クロエの顔面へ炎を纏った拳を叩きつけた。
だが――。
「あなたの相手は後でちゃんとしてあげるから、そんなにガッつかないの」
全くダメージのない、いや動じてさえいないクロエ。
だが、それでもマナは怯まずに、燃える拳をぶつけていく。
キャスを離せと叫びながら何度も何度も。
すると、マナの体が突然地面に押し付けられた。
「ママ、もういいでしょ? さっさと逃げた奴らも殺して終わりにしようよ」
そう言ったグラビティシャド―は手を翳していた。
自身の持つ力――重力を操る能力で、マナの体を地面に這いつくばらせたのだ。
クロエは残念そうな顔をグラビティシャド―へと向けた。
そして、マナを解放するように告げると、抱いていたキャスの体を放り出す。
グラビティシャド―は、渋々といった感じで翳していた手を下げた。
重力から解放されたマナは、放り出されたキャスを抱き起こした。
「大丈夫だよ、キャス。あたしがすぐに治してあげるからね」
マナは穏やかな笑みを浮かべながら、キャスに語り掛けた。
だが、キャスが返事をすることはなく、その目にはもう光は残されていなかった。
「ねえ、マナ。合成種と人間との間に生まれたあなたは、一体どんな味がするのかしら?」
そして、ゆっくりとクロエがマナの元へ近づいて来ていた。
……兄さん……ラスグリーン兄さん。
ごめんなさい……あたし……せっかく兄さんが傍にいるって感じられたのに……。
……兄さんに会う前にここで……。
マナの思考を読んだのか、クロエは安らぎに満ちた顔を向ける。
そして、そっと手を差し伸べた。
「マナ……可愛い子……。大丈夫、あなたも私の中で生き続けるのよ」
クロエに見つめられたマナは、目が見開いたキャスを抱いたまま、その場で動けなくなっていた。
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