31章

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31章

アンとロミ―を(かつ)ぎ、そしてニコを(かか)えて走っていたルドベキアは、ようやく城から外が見えるところまで辿(たど)り着いていた。 見渡(みわた)(かぎ)りの青い空と白い(くも)――。 今のルドベキアの心境(しんきょう)とは(ちが)い、そこから見える風景(ふうけい)は、とても清々(すがすが)しいものであった。 (いき)を切らし、眉間(みけん)(しわ)()せるルドベキア。 ここまで逃げて来れたのは、自分1人だけの力ではない。 仲間たちの犠牲(ぎせい)があってこそ――マナ、キャス、シックス、それにクリアのおかげだ。 そう考えると、ルドベキアはその場に立ち()くしてしまっていた。 両目(りょうめ)からこぼれ落ちそうになる(なみだ)は、(おのれ)無力(むりょく)(なげ)(くや)しさからか、はたまた仲間を思う感傷(かんしょう)からか。 それは、ルドベキアがどこまでも続く蒼天(そうてん)(なが)めた途端(とたん)()きた感情(かんじょう)起伏(きふく)だった。 そんな彼を(なぐさ)めるかのように、抱えられているニコが(やさ)しく()く。 ルドベキアは涙を(ぬぐ)い、ニコへ笑みを向けると(ふたた)び走り出した。 「もうすぐ……もうすぐで飛行船(ひこうせん)だ。そうすりゃお前もお前のご主人様も安全なとこへ(はこ)んでやれる」 明るい声で言うルドベキア。 ニコは(うれ)しそうに鳴き返した。 ……そうだ。 今は泣いている場合じゃねえ。 マナ、キャス、シックス、クリア――あいつらのためにも……。 そして、何よりも俺が(まも)りてぇもんのために、ここでアン、ロミー、ニコ――こいつらは何があろうと無事(ぶじ)に、クロエ(あいつ)から逃がすんだ。 決意(けつい)(あら)たに、気持ちを切り()えたルドベキアだったが、そんな彼の目の前に、空中を浮遊(ふゆう)しながら(あらわ)れたクロエと、同じく(ちゅう)()かぶ土台(どだい)()ったグラビティシャドーの姿が。 「いい景色(けしき)ね、ここ」 クロエは、()けるような青空を見ながら、自身(じしん)の――いや、クロムの銀白髪(ぎんはくはつ)(もてあそ)ぶ。 クロムの姿をしたクロエを見て、(あらた)めて苛立(いらだ)ったルドベキアであったが、自分程度(ていど)の力では、けして(かな)わないことは理解(りかい)していた。 それに愛用(あいよう)の武器――斧槍(ふそう)ハルバードも、アンたちを担いで走るために()ててきてしまっている。 ルドベキアはアンたちとは(ちが)い、ただの人間だ。 アンやロミーは、マシーナリーウイルスの適合者(てきごうしゃ)。 マナ、キャス、シックスは、自然を(あやつ)能力(のうりょく)を持つ自我(じが)のある合成種(キメラ)。 そして、クリアは2匹の精霊(せいれい)加護(かご)()けた者。 仲間たちとは違い、彼は何の特別(とくべつ)な力も持ってはいない。 だが、それでも――。 たとえ武器が無くとも――。 ルドベキアは()()ぐにクロエを(にら)みつけている。 そんな彼の姿を見たグラビティシャドーは、小首(こくび)(かし)げ、実に不可解(ふかかい)そうにしていた。 この人間は、何故ママを目の前にして恐怖(きょうふ)しないのだろう? どんなちっぽけな生物だって、力の()を知れば従順(じゅうじゅん)になるというのに。 このルドベキアという男は、相手の力量(りきりょう)がわからないほど知能(ちのう)がないというのか? いや、そんなはずはない。 何故ならば、この男は真っ先にママから逃げる選択(せんたく)をした男だ。 そう――。 だからなんだ……。 だから(わけ)がわからないんだ。 そんなグラビティシャド―へ、クロエが笑みを向ける。 その表情(ひょうじょう)は、母親が愚図(ぐず)っている子供を見ているようだった。 そして、クロエは次にアンとロミーへとその目を向ける。 すると、気を(うしな)っていた彼女たちが、突如(とつじょ)として(くる)しみ始めた。 ロンヘアの持っていた能力――テレパスによる精神攻撃(せいしんこうげき)だ。 「いつまで(ねむ)っているの? さあ、早く起きなさい」 苦痛(くつう)(さけ)ぶ2人へ、クロエは朝になってもずっとベッドから出てこない子供へ声をかけるように言った。 「やめやがれッ!!!」 ルドベキアが素手(すで)で飛び()かった。 だか、クロエは全身から(ほのお)放出(ほうしゅつ)させ、それを(くさり)のように変化(へんか)させると、(ふところ)に飛んできたルドベキアの体に()き付ける。 クロエのアンとロミーへの精神攻撃は止めることができたが、ルドベキアは炎の鎖で拘束(こうそく)されてしまった。 そんなルドベキアの姿を見たクロエは、何か(ひらめ)いたようで両手(りょうて)(てのひら)をパンッと合わせた。 「そうだわ。面白いこと思い付いちゃった」 クロエの声を聞き、目の前を見るアン。 まだ頭の(いた)みは引いていなかったが、それどころではないと顔をあげた。 「ル、ルドッ!?」 そこには、炎の鎖に(しば)られながら、クロエに口づけをされるルドベキアの姿があった。
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