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34章
アンは、ルドベキアが光の壁を飛び越えて、この場から脱出しようとしていると思っていた。
壁を飛び越えるのに、無傷では済まないとは思うが、これでルドベキアだけでも生き残れると。
だが、彼の行動はアンが思っていたものとは違った。
ルドベキアは、その身を押し付けて向かってくる光の壁を受け止め始めたのだ。
「ルド!? お前、何をやってる!? いいから逃げてくれ!! お前だけなら逃げられる!!!」
アンは声が枯れるくらい叫んで言うが、ルドベキアはその行為を止めようとはしなかった。
そんな彼を見たニコが、少しでも光の壁から遠ざけようと、アンとロミー2人の体を引きずり始める。
「くっ!? おいニコ!!! お前も壁を飛び越えて逃げろ!!! ダメージは受けるかもしれないが、ここで死ぬことはない!!!」
アンは必死の形相で訴えたが、ニコは首を横にブンブンと振って彼女とロミーの体を引っ張り続けた。
アンが、ルドベキアとニコへ声をかけ続ける中、ロミーは何も言えずに、ただ歯を食いしばっているだけだった。
「ルド!! やめてくれ!!! お前だけでも逃げてくれ!!!」
「うるせえッ!!!」
今まで何も言い返さなかったルドベキアが、突然怒鳴り返した。
止める光の壁でその身を焦がしながら、彼はアンへ言葉を続ける。
「てめえは……俺が“お前”って言われるとムカつくって何回言えばわかんだ!!!」
こんなときに何を言い始めるんだと、アンはルドベキアの真意が理解できなかった。
そんな彼女にルドベキアは、さらに声を大きくして怒鳴りあげる。
「てめえは出会ったときからずっとお前お前って、何も変わりゃしねぇ!!! ホントムカつく女だぜ!!!」
「なら、そんなムカつく女なんか捨てて早く逃げろよ!!! ニコ、お前もだぞ!!! 早く逃げろッ!!!」
「同じくことを繰り返し言ってじゃねえ!!!」
「お前らが逃げないからだろう!!! もう私は……こういうのは嫌なんだよ!!!」
アンは、もう仲間に傷ついてほしくなかった。
マナ、キャス、シックスは、自分たちを逃がすために犠牲となってしまった。
これ以上はもう――と、彼女は目から涙が止まらなくなる。
「うるせえぞ!! 無愛想女ッ!!! どうせ俺が生き残ってもこいつには勝てねえ!!! だから、てめえらを生かすほうを選んだだけだ!!!」
「そんなの理由になるか!!! お前も見ただろ!? あいつの力を……あいつはみんなの能力が使えるんだ!!! たとえ私たちが生き残ってもクロエには勝てっこない!!!」
苦痛で表情を歪めるルドベキア。
光の壁の凄まじい波動によって、彼の手はもうすでに原型を留めてはいなかった。
そして、トレードマークである頭に巻いていたバンダナも弾け飛んでしまっていた。
そんなルドベキアへ、アンは泣きながら声を張り上げた。
「どうしてそこまでする!? 早く逃げろ!!! 早く……逃げてくれよ……」
アンが俯きながら力なく言うと――。
「どうせここで助かってもいつかは死ぬんだ。なら……死に場所は……ここがいい……」
ルドベキアのアンへ向けた声が、次第に弱々しくなっていく。
アンは顔をあげて、彼の背中を見つめた。
傷つきながらも、けして心折れずに、光の壁を止めるルドベキアのその背中を――。
「もういい……もういいよ……やめてくれよ……ルドッ!!!」
「うるせえ……俺は……俺は……」
ルドベキアは声は、次第に弱くなったかと思うと、突然――。
「てめえのことが好きなんだよッ!!!」
それがルドベキアの最後の言葉だった。
彼はアンたちの目の前で、光の壁に飲み込まれ、消滅していく。
「ル、ルド……? ルド……ルドォォォッ!!!」
アンの呼びかけも空しく、その声も光の壁へと飲み込まれていった。
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