36章

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36章

アンたちのいた地面(じめん)を引き()き、空へと落としたのは、ストリング帝国の将軍ノピア·ラシックだった。 ノピアは手に持った()()なマグマのように光る(やいば)――ピックアップブレードをクロエへと向ける。 「その姿……お前がコンピュータークロエ? たしかローズ·テネシーグレッチにくっついていた鍛冶屋(かじや)のクロム·グラッドスト―ンのように見えるが……」 ノピアはブレードを向けながら、()いた手でズレてもいないスカーフの位置(いち)(なお)し始めた。 クロエの(そば)で、そんなノピアの姿を見たグラビティシャド―。 彼は表情(ひょうじょう)(ゆが)めると同時(どうじ)舌打(したう)ちをした。 「どうやらグレイの奴がまたしくじったようだね。本当に()めが(あま)い」 グラビティシャド―は、乗っていた土台(どだい)から()り、その手をノピアへ向けようと動かした。 自身(じしん)の力――重力(じゅうりょく)(あやつ)能力(のうりょく)で、ノピアの体を地面へ押させつけようと。 だがクロエは、彼に向けて上機嫌(じょうきげん)に手を()った。 それを見たグラビティシャド―は、渋々(しぶしぶ)上げた手を下ろす。 「この舞台(ぶたい)であなたが出てくる場面(ばめん)はないと思うんけど? 今さら何しに来たのかしら?」 「この城はストリング皇帝閣下(かっか)のものだ。それを返してもらう」 ノピアの返答(へんとう)を聞いたクロエは、(かた)()らしてクスクスと笑った。 その近くに立っているグラビティシャド―も、彼女につられてか鼻で笑っている。 「フフフ、突然笑ったりしてごめんなさいね。え~と、たしかレコーディー·ストリング……だったかしら? もう知っているかもしれないけど、あの男は作られた人造人間(アンドロイド)。この荒廃(こうはい)した世界を変えようと頑張(がんば)っていたのは、全部そういう風にプログラミングされていたからなのよ。それなのに、城を返せだなんて」 「それがどうした?」 (まった)動揺(どうよう)を見せないノピアの態度(たいど)に、(あら)れてから今まで――(つね)に笑みを()かべていたクロエの表情が歪んだ。 不可解(ふかかい)な顔をした彼女に、ノピアは言葉を続ける。 「皇帝閣下が人造人間(アンドロイド)だろうとなんだろうと、一体何の問題(もんだい)がある? たとえそれがお前たちの仕組(しく)んだことであったとしても、あの方がいなかったらストリング帝国――いや、人類は今でも合成種(キメラ)(おび)える生活をしていただろう」 「だからそれは、そういうプログラミングをされたんだってば。もう、私の話を聞いていなかったのかしら?」 「お前こそ、こっちの話を聞いていないのか? “たとえそれがお前たちの仕組(しく)んだことであったとしても”と言ったはずだが?」 ノピアの言葉に苛立(いらだ)ったグラビティシャド―が、彼へ飛び掛かろうとした。 だが、クロエが先ほどと同じように手を振り、それを(おさ)える。 「なんでよママ? こんな奴さっさと消しちゃえばいいじゃん。こいつもマシーナリーウイルスの適合者(てきごうしゃ)みたいだけどさ。テネシーグレッチ姉妹(しまい)(ちが)って出来損(できそこ)ないだし。ママの新しい体にはなれないよ」 (ほほ)(ふく)らませて言うグラビティシャド―を(なだ)めるように、クロエは(おだ)やかな笑みを向けた。 そんなクロエの顔を見たグラビティシャド―は、またも仕方(しかた)なしに(だま)るのであった。 「主君(しゅくん)敵討(かたきう)ち……あなたの言葉を()りるなら、さしづめ悲劇役者(ひげきやくしゃ)ってところかしら。だけど……」 それから、クロエはノピアをじっと見つめ始める。 ノピアはしびれを切らしたのか、そんな彼女へと斬りかった。 クロエは、手をノピアへ向けると、そこから(ほのお)(ほとばし)り始め、やがて(あざ)やかな無数(むすう)紅球(こうきゅう)(はな)たれた。 だが、ノピアは向かってくる雨のような炎をすべてを切り(はら)い、すべて相殺(そうさつ)。 そのときの彼は、まるで手が何本にもあるように見える斬撃(ざんげき)()り出した。 「……炎か。マナ·ダルオレンジの力だな」 クロエは、見事(みごと)にブレードを使ってみせたノピアを見て、身を(よじ)り、恍惚(こうこつ)の表情を浮かべていた。 「……気が変わったわ。ノピア·ラシック。あなた……面白(おもしろ)い」
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