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エピローグ
遥か上空に浮かぶストリング城内――。
玉座に腰をかけているクロム·グラッドスト―ンの姿をしたクロエは、静かにその両目を閉じていた。
彼女の体には、天井から伸びている幾つもの配線が突き刺さっている。
それは、ストリング城のメインコンピューターと繋がって、地上の様子を確認するためだ。
そこへ、グラビティシャド―がそっと姿を見せた。
クロエによって生み出された自我を持つ合成種――。
小柄な男が、少しずつクロエへと近づいて行く。
「ねえママ。今世界はどんな感じ?」
グラビティシャド―に声をかけられたクロエは、閉じていた両目をゆっくりと開く。
そして、母親が子供におとぎ話でも聞かせるように、穏やかな声遣いで口を開いた。
現在地上では、ストリング帝国と反帝国組織バイオナンバーの戦争がまだ続いている。
戦況は、皇帝――レコーディ―·ストリング、将軍――ローバル·バッカスの不在と、ストリング帝国――本国へ向かわせた1万の軍勢を失ったストリング帝国が追い詰められている状況だった。
「こんなときにまだ戦争を続けているなんて……人間って本当に愚かな生き物よね」
大きくため息をついたクロエが呆れた表情でそう言うと、グラビティシャド―が「何を今さら」といったような顔で笑った。
クロエは、ストリング皇帝が死んだことを全世界へ伝えた。
空に浮かぶストリング城で世界各地を回り、デジタル音声による説明と、プロジェクションマッピングによる映像で、皇帝の残骸を流していったのだった。
そして、かつて文明社会を崩壊させた合成種を生み出したコンピュータークロエ――自分自身が復活したことも。
だが、それでも人間たちは戦いを止めることはなかった。
むしろ、ストリング帝国の皇帝――レコーディ―·ストリングが死んだ事実が、戦争をさらに激化させた。
反帝国組織は、皇帝がいなくなったと知るとすぐに攻勢に入り、帝国はそれを撃ち破ろうと反撃をする。
そのことがクロエを失望させていた。
「やはり人間は変わらないわね……とっても残念だけど……」
「じゃあ、ママ」
「ええ。もうこんな世界はいらないわ」
クロエとグラビティシャド―が玉座の間にいる頃――。
グレイは、クロエに敗れ、拘束されているノピアのところへ来ていた。
ノピアの全身には配線で突き刺さっており、現れたグレイにも気がつかず、ただ静かに眠っている。
「これで終わりじゃないよな? 君もあの子らも……」
眠っているノピアへ声をかけるグレイ。
彼の手には、古い1枚の写真があった。
そこに写っていたのは雪景色の中に見える人物――。
ルドベキアの母親であり、ロミーとクロムの育ての親でもあるプラム·ヴェイスと、まだ幼かったときのルドベキア――。
そしてその傍には、はしゃいでいる電気仕掛けの子羊ニコとルー2匹の姿もあった。
グレイはノピアに声をかけ終わると、部屋から出ていく。
「プラム……すまないな……」
彼はそう呟くと、その古い写真をコートのポケットにしまった。
了
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