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3章
グレイがそう言うと、突然アンたちの頭の中に声が聞こえてきた。
「こんにちは……私の愛する子供たち……それとグレイが選んだ少女……アン·テネシーグレッチ……。私がクロエよ」
どこからか聞こえてくる女性の声。
アンはこの感じを知っていた。
死を覚悟して自らを犠牲にしたルーザーが、最後に彼女に語り掛けてきた――あのときと同じ感覚だ。
皆全員、辺りを見渡したが、このストリング城の大広間にいるのはアン、マナ、キャス、シックス、クロムと――。
そして、5人の前にいるグレイ、グラビティシャド―、気を失っているロミーだけだった。
「どうやら何も知らないみたいね。大丈夫。ちゃんと話してあげるから」
アンたちに語り掛ける声の主は、穏やかな声で、何故姿が見えないのに声が聞こえてくるのかを説明し始めた。
Personal link(パーソナルリンク)――通称P-LINK。
マシーナリ―ウイルスの適合者、または合成種同士なら、たとえ離れていても互いの存在を確認できたり、テレパシーのようなもので会話できたりする力のことを。
そして、さらに覚醒すれば、互いの心の中に入ることができるようになると続けた。
「どう? 素敵でしょう? いつでも繋がっていて、互いに何も隠すことなく相手の心を理解し合えるなんて」
「ルーザーもこの力を使っていた……もしかしてルーザーもお前が作った合成種だったのか?」
アンの問いに、クロエはクスッと微笑む。
「彼は違うわ。そうね……でも、P-LINKは彼がいなければ完成しなかった技術ではあるかも……」
何か思い出したのだろうクロエは、そのままクスクスと笑い続けた。
「私たちのママとかいうつもりなら姿くらい見せたらどうだ?」
キャスが強気なことを言うと、ロミーを担いでいる男――グラビティシャド―が鼻で笑う。
苛立ったキャスは、彼を睨みつけたが、目を逸らされしまった。
「もう見せているわ」
クロエはそう言うが、やはりそれらしい人物は周りにはいない。
だが、その中でシックスが、何かに気がついたような表情になった。
「もしかして……このストリング城自体がクロエなのか?」
「えっ!? それってどういうことなの!?」
マナがシックスに訊ねると、彼は自分の考えを話し始めた。
クロエは話によればコンピューター。
先ほどの話で、グレイがこのストリング帝国を作ったというのなら、当然ここの機械類はすべてクロエの電子頭脳と繋がっているはずだと。
「おめでとう。正解よ、風。あなたは文武両道に恵まれた良い子に育ってくれたみたいで嬉しいわ。でも、今のあなたはシックスって呼ばれているんだっけ?」
「風だと?」
「ええ、あなたの名は風。他の子たちにも私が付けた名前があるわ」
クロエがシックスにそう言うと、彼女はマナ、キャス、クロムの名前も3人へ伝える。
マナは火――。
キャスは水――。
クロムは土――。
クロエが与えた名を聞いたマナは、大広間の天井へ向かって叫ぶ。
「ふざけないでッ!! 私はお父さんとお母さんにつけてもらったマナっていう名前がある!!! そんなイグニスなんて可愛くない名前なんかじゃないよ!!!」
「そうね……正確には火はあなたの母の名――。マナ。あなたには興味が尽きないわ。だって、今までの合成種に交配能力なんてなかったもの。まさか人と合成種が……そうね……やはり愛……愛なのね」
クロエの声を聞くと、彼女がウットリとしているのがわかる。
マナの怒号も、クロエにはもう聞こえていないようだった。
「恍惚になっているところを悪いが、私はたとえ自分が合成種だったとしても、戦士であることに変わりない。それが私が今まで生きてきた証であり誇りだ」
「水。あなたの美しさと聡明さ……そして気高き女性として生きてきたのをずっと見てたわ。それは私にとってとても喜ばしいことだった」
「私の名は戦士キャス·デュ―バーグだ!! 水などではないッ!!!」
「ああ……素晴らしい……素晴らしいわ……それがあなたの矜持なのね……」
キャスはクロエの声を聞いて、何もないところで思わず仰け反ってしまっていた。
気味悪そうにしている彼女の横で、震え始めたクロムが突然大声で叫ぶ。
「お前なんかどうでもいいッ!! 早くロミーを放せッ!!! さもないとこの城ごとぶっ壊してやるッ!!!」
「土……あなたは私に似せて作った子……。その彼女への気持ち……愛、愛なのね」
「うるさいッ!! ボクがお前なんかとは似てるわけないだろッ!!!」
「ああ……あなたは特に可愛い子……。安心して、あなたはちゃんとローズ·テネシーグレッチと結ばれるわ」
クロムがそう言った瞬間――。
大広間の天井に、激しく雷光が輝いた。
その電撃は、飾られていた豪奢なシャンデリアを破壊し、ガラスや水晶の割れた音が大広間を埋め尽くす。
「御託はもうたくさんだ。私たちはロミーを連れて帰らせてもらうぞ」
機械の腕を上に翳しながら、稲妻を纏ったアンが静かにそう言った。
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