20人が本棚に入れています
本棚に追加
ボーナストラック_幕舎の中で
ストリング城が空へと浮かぶ前――。
そこから、かなり離れた反帝国組織バイオナンバーの野営地。
その陣地内には、多くの幕舎が並んでいる。
その中の1つに、一際明るい声が聞こえてくるものがあった。
軍幕内には、坊主頭の男性と、銀髪の女性が仲睦まじく笑い合っている。
2人はバイオナンバーの兵士であるブラッドとエヌエー。
シックスと同じく、バイオナンバーを結成したリーダーのバイオに、子供の頃拾われた、いわば彼の幼なじみである。
ブラッドとエヌエーは何が楽しくて笑い合っているのか?
それは、シックスがキャスとマナと共に反帝国組織の野営地を出てからしばらくして、ようやく来た連絡について話していたからだ。
シックスはストリング帝国にあった古い電波回線を使って、アンの暴走を止めたことや、今一緒にいる仲間たちについて、2人へ伝えたのだった。
ブラッドもエヌエーも、アンやシックスたちが無事なことを喜び、さらに聞いた新しい仲間の話――クロム·グラッドスト―ンとルドベキア·ヴェイス、そして、電気仕掛けの黒子羊ルーの話題で盛り上がっていた。
しばらくして、軍幕の出入口が開かれ、中へ人影が入って来る。
そこには、以前にシックスを処刑しようとしたメディスンの姿があった(今の彼はもうそのことを反省し、生まれ変わったように組織のために働いている)。
ブラッドとエヌエーは、早速さっきの話題をメディスンへ振った。
クロムという少年は、大人の背丈よりも高く大きなハンマーを使い、さらには大地を操る能力がある。
マナは火、キャスは水、シックスは風、そしてクロムは土なんて、これは何か運命なのではないかとはしゃぎながら言う2人に、メディスンは落ち着くように言葉を返していた。
だが、2人はとても収まらず、次にルドベキアとル―の話を続ける。
雪の大陸にあったガーベラドームの若き王――ルドベキア·ヴェイス。
彼の存在は、ブラッドもエヌエー、そしてメディスンも反帝国組織のメンバーなら誰でも知っていた。
だからメディスンは、ルドベキアがシックスと繋がったことを喜んでいるものかと思っていたが――。
「違う違う。それはもちろん嬉しいことなんだけど」
エヌエーが笑顔で右手を振った。
2人が盛り上がっている理由は、ルドベキアが仲間にいることではなく、どうやら彼はアンのことが好きらしいと聞いたからだった。
それを聞いたメディスンは、ため息をつくと、どうでもよさそうに言う。
「おい、シックスはアンの奴が好きだったんじゃないのか? それなのに何故喜んでいるんだお前たちは?」
それを聞いたブラッドとエヌエーは顔をしかめた。
その表情は「何を言っているんだお前は?」とでも言いたそうだ。
「おいおい、シックスはキャスだろ?」
「そうよ。2人を見ていてわからなかったの?」
一斉に突っかかってくる2人に、メディスンはもう辟易していた。
この幼なじみカップルは、こういう話が昔から大好きなのだ。
そして、また話題は飛び、黒子羊ルーのことに――。
エヌエーは、ルーがニコと同型のロボットであると聞いて、2匹を並べて写真を取ったり、その体を覆ている豊かな毛に触れたいと声を張り上げていた。
それは、ブラッドも同じだった。
エヌエーに負けないくらいの声で、ニコとルーを抱きしめたいと叫んでいる。
そんな2人を見たメディスンは、この軍幕に入ってから2回目のため息をついた。
このカップルは、恋の話だけではなく動物も共通で好きなのだ。
そして、ブラッドとエヌエーはストリング帝国との戦争が落ち着いたら、全員で集まろうと話し始めた。
そのときには――。
エヌエーは、得意料理である砂鰐の唐揚げを――。
マナも得意の鶏料理を――。
クロムには、シックスから聞いた白鹿の乳から作ったチーズを――。
他にも色々と用意してパーティーをやりたいと盛り上がり続けた。
「あ~次にアンたちに会うのが楽しみだね」
「そうだな。早く戦争が終わればないいな~」
今までずっと呆れていたメディスンだったが、その顔はいつの間にか笑顔になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!