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4章
突然天井に向かって電撃を放ったアン。
そんな彼女を見ながらキャスは、大きくため息をつく。
「……まったく、シックスがもう少し様子をみようと合図を送ったことに気がつかなかったのか? 相変わらずだな、お前は……」
「どの道私たちが考えていることなど、さっき話していたPersonal link(パーソナルリンク)……P-LINKとやらで筒抜けだろう」
アンがそう言うと、それぞれ皆が構える。
「そうは言っても、あたしの頭の中には声以外何も入って来なかったよ」
不愉快そうなマナの体から炎が燃え上がる。
そして、その穏やかにうごめく紅炎が、彼女を包むように轟々と燃えていた。
「私もだ。もしそのP-LINKというのが、マシーナリーウイルスの適合者や合成種同士の意思の疎通を可能にするのなら、奴らの考えが私たちに聞こえてきてもいいようなものだが」
キャスは疑いの眼差しをグレイたちに向けたまま、体から水流の音が聞こえ始め、その身を透き通った水が包んでいく。
全身に纏った透き通った水が、大広間の照明を浴びて青みを帯びた。
そして彼女は、ストリング帝国から持ってきていたピックアップブレードの光の刃を出して、それを構えた。
「おそらくだが、何かしらの技術がいるのだろう。こちらからは相手の考えがわからなくても、連中には俺たちの考えていることがわかっていそうだ」
袖のない胴着のような服から見える丸太のようなシックスの腕――。
そこから繋がっている鋼鉄の手甲が付けられた手を握ると、彼の足元から荒々しい風が舞い上がった。
「そんなことよりも早くロミーを助けるんだッ!!!」
握った大人の背丈をも超える大きなハンマーをクロムが握り直すと、激しく大広間の床が揺れ始めた。
その揺れは、間違いなく彼の感情に呼応している。
そしてアンが、グレイとグラビティシャド―の前へ一歩踏み出した。
「こちらは5人、悪いが卑怯とは言わせないぞ」
アンがそう言った途端に、5人の頭の中にクロエの笑い声が聞こえ始めた。
「アン……あなた強くなったわね。素敵……素敵よ」
それからクロエは嬉しそうに話し始めた。
アンがストリング帝国のローランド研究所にいたときとは別人だと。
さらにマシーナリーウイルスに取り込まれ、醜い機械の化け物になってしまったときと違い、逞しくなったと。
そして、まるで小馬鹿にでもするかように訊ねる。
「ロンヘアがあなたに与えた愛はどうだった? 彼はとても素敵だったでしょ? そう……ロンヘアは愛……愛でできていたのだから素敵じゃないなんてことはないはずだわ」
「お前がロンヘアを語るな!!!」
頭の中へ聞こえてくる声に対して、アンは怒鳴り返すと、腰に帯びたピックアップブレードを握り、先ほどのキャスと同じように白い光の刃を出す。
「グレイが私を騙していたこと……世界を破滅させたクロエが今この場にいること……。私はそのすべてに決着をつけてロミーを連れて帰るだけだ!!!」
アンがそう叫んだ瞬間――。
突然彼女の体が地面に押し付けられた。
まるで全身に重たいもので伸し掛かったかのように、その場にうつぶせの態勢で倒れされてしまう。
そんなアンを見て皆が叫ぶ。
そして前を見ると、ロミーを担いでいた小柄な男――グラビティシャド―が彼女に向かってその手を翳していた。
床に這いつくばり、表情を歪めるアンへ、グレイが無感情に声をかけた。
グラビティシャド―には重力を操る力がある。
今アンへしているように、重力を大幅に増加させて相手に攻撃を仕掛けたり、逆に重力を逆転させることもできる便利な能力だと。
グレイが話している間にも、アンの体をみるみる床にめり込んでいっていた。
「これでも君はもう動けない」
そう言ったグレイの目の前に、いつの間にか飛び込んできていたクロムのハンマーが見えたが――。
「無駄さ。君らは俺たちに攻撃することなどできないよ」
その言葉が聞こえた瞬間に、飛び掛かっていたクロムの体が吹き飛んだ。
「クロムッ!? な、なんだ今のは!? もしかして今のもグラビティシャド―の……」
「違うよ。忘れたのかい? 4人はママが作った合成種。当然、その体はママのものだ」
床に押し付けられていたアンが叫ぶ。
それをグレイが遮り、冷たく説明をしている間にも、マナ、キャス、シックスの3人が苦しみ始めていた。
それぞれが頭を抱え、その部分が光輝き出している。
「くっ!? み、みんなッ!?」
苦しみだす3人を見たアン。
だが、今の彼女はグラビティシャド―の能力によって身動きが取れない。
「では、これから肉体へデータの移行を始めようかしら」
床へめり込んでいくアンの頭の中に、嬉しそうに言葉を続けるクロエの声が聞こえていた。
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