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6章
「精霊の加護を受けた女……もう1人はただの人間の男か……。そして、ストリング皇帝が自ら来たみたいね」
クロエがそう言うと、グレイがグラビティシャド―へ目を向けた。
その視線は、侵入した者を排除しろという意味だろう。
グラビティシャド―は、それを理解し、頷くと――。
「シープ·グレイ……私の羊……あなたが行きなさい」
そのクロエの言葉に、グレイは驚いているようだった。
グラビティシャド―も、どうして自分ではないのかと、両眉を下げて首を傾げている。
「精霊憑きの女と人間の男はともかく、あの皇帝……レコーディー·ストリングに関しては、あなたが責任を持つべきよ」
そう言われたグレイは、やれやれと言わんばかりにため息をついて、ゆっくりと扉へと向かう。
「ママ。データの移行は侵入者を排除してからのほうがいい。何があるかわからないからね。俺が戻るまでは始めないでくれ」
背を向けたままのグレイは、そう言ってから大広間を出て行った。
――その頃。
ストリング城内へと入ったルドベキアとクリア、そしてニコとルーは、アンたちのいる大広間を目指していた。
「本当にそこで間違いないんだな?」
「ええ、リトルたちがそう言ってます。そこから何かおぞましい気を感じると」
リトルたち――。
クリアの刀にその身を変えている精霊――。
小雪と小鉄は、どうやらクロエのいる場所を感じることができるようだ。
ルドベキアたちがストリング城の廊下を進んでいくと、目の前に特異な形状の鎧甲冑のような姿をしている人の形をしたものが立っていた。
ストリング帝国の機械兵オートマタだ。
ルドベキアたちに気がついた数体のオートマタが、ゆっくりと体の向きを変えて睨んでくる。
そして、一斉にデジタルな咆哮をした。
その機械人形の中から1人――。
マグマのように真っ赤な光を放つピックアップブレードを両手に持った男――レコーディー·ストリングが現れた。
「クッソたれだぜ……こんなときにとんでもねえ野郎に会っちまった……」
「久しぶりだな。ガーベラドームの若き王よ」
親しげに話をかけてくるストリング皇帝。
だが、それとは反対にルドベキアは冷や汗を掻いていた。
クリアは、そんな2人を交互に見ている。
ニコとルーも彼女の真似をして、同じように首をキョロキョロさせていた。
「え~と、ルドベキア·ヴェイス。この方はお知り合いですか?」
「ルドいいよ、着物の姉ちゃん。こいつはこの城の王様だよ」
ルドベキアが目に前にいる人物のことをクリアに教えると、彼女は表情を強張らせて、皇帝のほうを見ていた。
そして、何故かニコとルーも同じように彼女の顔真似をしている。
「ほう、この方があのストリング皇帝ですか。たしかに貫録がおありですね。あとルド。私の名はクリア·ベルサウンドです。着物の姉ちゃんではありません。ちゃんと名乗ったというのに、まだ覚えていないんですか?」
「そんな文句は後にしろよ!!!」
そして、ストリング皇帝は一歩前に出た。
それを見て、ルドベキアは斧槍ハルバードを――。
クリアは2本の刀を――
それぞれ構えた。
「わざわざ紹介ありがとう、ルドベキア·ヴェイス君」
「なんでてめえがここにいんだよ」
「私は自分の住居に戻っただけだが? それよりも君のほうこそ、私の城で何をしているのかね?」
ルドベキアは、その問いには答えずにストリング皇帝へと斬りかかった。
だが、数体のオートマタが盾となり、彼の攻撃が阻まれてしまう。
「答えもせずにいきなり斬りかかってくるとは。相変わらず乱暴者だな、君は。それにしてもだ。どうやらまだわかっていないようだね。君では私には勝てん」
攻撃をし続けるルドベキアにクリアも続き、次々と皇帝の周囲を守っているオートマタを破壊していく。
「部下の仇討ちのつもりかね? まったく、それだから君は王の器ではないと言ったのだ」
「うるせえッ!!! 今はてめえの相手なんかしてる場合じゃねえんだよ!!! 着物の姉ちゃん!! それとニコとルー!! 俺の後に続けッ!!!」
そう叫んだルドベキアは、オートマタをなぎ倒していき、ストリング皇帝の横を通り過ぎていく。
皇帝は、そんなルドベキアを少し感心した様子で見ていた。
「ふむ、感情に身を任せていた以前とは、少しは違うようだな。だが……」
ルドベキアたちは、ストリング皇帝から離れたはずだったが、一瞬のうちに回り込まれてしまった。
そして、真っ赤に光るピックアップブレードを構え直して、ルドベキアへと向き合う。
「このまま行かせるのは面白くないな」
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