21人が本棚に入れています
本棚に追加
8章
ストリング皇帝は、間合いを詰めて斬りかかってきたクリアの刀をピックアップブレードで受ける。
赤く輝く光剣と、妖しく光を放つ刀が激しく火花を散らした。
「素晴らしい踏み込みだ。基本からしっかりやってきている者ではないと、こうはいかぬ」
2本のブレードと刀が重なった状態で、ジリジリとストリング皇帝が押していく。
「お褒めの言葉、大変恐縮ではございますが、この程度で驚かれては困ります」
そう答えたクリアは、重なっていたブレードを横に反らすと、左右に握った刀を素早く斬りつけた。
その斬撃は1度2度とは言わず、連続で繰り出されていく。
二刀流による連撃だ。
その剣撃の速度は、まるでマシンガンのようにストリング皇帝に襲い掛かっていく。
だが、皇帝は、クリアと同じく2本のブレードを使い、それをうまく受け流していた。
「太刀筋もまた素晴らしい。それに力まず、まるで古典舞踊を舞うようなしなやかな打ち込みだ」
クリアは激しく刀を振りながら思っていた。
こちらは最初から全力で斬りかかっているというのに、この初老の男はまるで稽古でもつけるかのように、感想を言う余裕がある。
正直、この男の底が見えない。
「君の名はクリア·ベルサウンド……と言ったかな? 私も連撃には自信があってね。どれ、1つ速さ比べといこうか」
そこからストリング皇帝は、クリアの打ち込み以上の手数を返し始めた。
先手を取ったはずのクリアだったが、皇帝が攻撃に転ずると徐々に押され始める。
その凄まじいほどの攻撃の手数は、まるで今は無き宗教――。
仏教における信仰対象である千手観音菩薩のように、ストリング皇帝の体から千手が見えるようだった。
「ほう。まだ受けていられるか。クリア·ベルサウンド君。君をぜひ我が帝国に、剣の指南役として雇いたいものだな」
激しく打ち合いながらも、言葉を続けるストリング皇帝。
それに、もの凄い速度で連撃を続けているというのに、まるで息が乱れていなかった。
反対にクリアは、皇帝のブレードを受けるのが精一杯で、呼吸することも苦しくなっている。
「はぁぁぁッ!!!」
苦しくなったクリアは、先ほどのように剣を振り、ストリング皇帝を力任せに下がらせた。
後方に下がらされた皇帝は、またゆっくりとクリアのほうへと向かってくる。
「はあ、はあ……」
「どうしたのかね? 息が上がっているぞ。それにしても今の一撃は見っともないものだったな。最初に打ち合ったときとはまるで別人の剣撃だ」
なんとか呼吸を整えようとするクリアを見たストリング皇帝は、先ほどと変わらずに、弟子に指摘するかのように彼女へ言葉を続けた。
「どうした? もう終わりかね? 私はまだ汗の1つも掻いていないのだが」
「……ならば、これならどうですッ!!!」
クリアは、両手に握っていた2本の日本刀を逆手に持った。
向かってくるストリング皇帝へ、居合抜きの構えをとる。
「お願い、リトルたち……」
クリアが両目を瞑り、そう言葉を発すると、左右の手に持たれた白い刀と黒い刀が、妖しく光を帯び始めた。
先ほどストリング皇帝が妖といった精霊――小雪と小鉄の力――。
2本の刀は、高度な科学技術を持った国の王であるストリング皇帝が知らない、不思議な波動を放ち始めた。
「ストリング皇帝……ただの打ち合いだけでは私を倒すことなどできませんよ」
そしてクリアは、ストリング皇帝に向けて2本の刀を抜刀。
凄まじい波動が放たれ、飛ぶ斬撃となって皇帝に襲い掛かった。
「ほう、妖怪変化の力か? 面白い」
だがその飛ぶ斬撃は、ストリング皇帝の持つブレードによって十字に斬り裂かれ、見事に相殺されてしまった。
クリアは、それを見て体から力が抜けていくのを感じていた。
そして、そのまま自分が震えていることに気がつく。
「あの斬撃すらも……。ま、まさか……こ、ここまで力の差があったのですか……?」
ただ刀を持って立ち尽くすクリアへ、ストリング皇帝は声をかける。
「クリア·ベルサウンド君。君は私と向き合ったときからすでに負けていたのだよ。自分と相手の力量を推し量れない者に待つのは敗北の2文字、つまり死だ」
最初のコメントを投稿しよう!