8章

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8章

ストリング皇帝は、間合いを()めて斬りかかってきたクリアの刀をピックアップブレードで受ける。 赤く(かがや)く光剣と、(あやし)しく光を(はな)つ刀が(はげ)しく火花を()らした。 「素晴(すばら)らしい()み込みだ。基本(きほん)からしっかりやってきている者ではないと、こうはいかぬ」 2本のブレードと刀が(かさ)なった状態(じょうたい)で、ジリジリとストリング皇帝が押していく。 「お()めの言葉、大変恐縮(きゅうしゅく)ではございますが、この程度(ていど)(おどろ)かれては(こま)ります」 そう答えたクリアは、重なっていたブレードを横に()らすと、左右に(にぎ)った刀を素早(すばや)く斬りつけた。 その斬撃は1度2度とは言わず、連続で()り出されていく。 二刀流(にとうりゅう)による連撃だ。 その剣撃の速度(そくど)は、まるでマシンガンのようにストリング皇帝に(おそ)()かっていく。 だが、皇帝は、クリアと同じく2本のブレードを使い、それをうまく受け流していた。 「太刀筋(たちすじ)もまた素晴らしい。それに(りき)まず、まるで古典舞踊(こてんぶよう)()うようなしなやかな打ち込みだ」 クリアは激しく刀を振りながら思っていた。 こちらは最初から全力で斬りかかっているというのに、この初老(しょろう)の男はまるで稽古(けいこ)でもつけるかのように、感想(かんそう)を言う余裕(よゆう)がある。 正直、この男の(そこ)が見えない。 「君の名はクリア·ベルサウンド……と言ったかな? 私も連撃には自信(じしん)があってね。どれ、1つ速さ(くら)べといこうか」 そこからストリング皇帝は、クリアの打ち込み以上の手数を返し始めた。 先手(せんて)を取ったはずのクリアだったが、皇帝が攻撃に(てん)ずると徐々(じょじょ)に押され始める。 その(すさ)まじいほどの攻撃の手数は、まるで今は無き宗教(しゅうきょう)――。 仏教(ぶっきょう)における信仰対象(しんこうたいしょう)である千手観音菩薩(せんじゅかんのんぼさつ)のように、ストリング皇帝の体から千手が見えるようだった。 「ほう。まだ受けていられるか。クリア·ベルサウンド君。君をぜひ我が帝国に、剣の指南(しなん)役として(やと)いたいものだな」 激しく打ち合いながらも、言葉を続けるストリング皇帝。 それに、もの(すご)い速度で連撃を続けているというのに、まるで息が(みだ)れていなかった。 反対にクリアは、皇帝のブレードを受けるのが精一杯(せいいっぱい)で、呼吸(こきゅう)することも(くる)しくなっている。 「はぁぁぁッ!!!」 苦しくなったクリアは、先ほどのように剣を振り、ストリング皇帝を力任(ちからまか)せに下がらせた。 後方(こうほう)に下がらされた皇帝は、またゆっくりとクリアのほうへと向かってくる。 「はあ、はあ……」 「どうしたのかね? 息が上がっているぞ。それにしても今の一撃は見っともないものだったな。最初に打ち合ったときとはまるで別人の剣撃だ」 なんとか呼吸を(ととの)えようとするクリアを見たストリング皇帝は、先ほどと変わらずに、弟子に指摘(してき)するかのように彼女へ言葉を続けた。 「どうした? もう終わりかね? 私はまだ(あせ)の1つも()いていないのだが」 「……ならば、これならどうですッ!!!」 クリアは、両手に(にぎ)っていた2本の日本刀を逆手(さかて)に持った。 向かってくるストリング皇帝へ、居合抜(いあいぬ)きの(かま)えをとる。 「お願い、リトルたち……」 クリアが両目を(つぶ)り、そう言葉を(はっ)すると、左右の手に持たれた白い刀と黒い刀が、(あや)しく光を()び始めた。 先ほどストリング皇帝が(あやかし)といった精霊(せいれい)――小雪(リトル·スノー)小鉄(リトル·スティール)の力――。 2本の刀は、高度(こうど)な科学技術を持った国の王であるストリング皇帝が知らない、不思議な波動(はどう)(はな)ち始めた。 「ストリング皇帝……ただの打ち合いだけでは私を(たお)すことなどできませんよ」 そしてクリアは、ストリング皇帝に向けて2本の刀を抜刀(ばっとう)。 凄まじい波動が放たれ、飛ぶ斬撃となって皇帝に襲い掛かった。 「ほう、妖怪変化(ようかいへんげ)の力か? 面白(おもしろ)い」 だがその飛ぶ斬撃は、ストリング皇帝の持つブレードによって十字に斬り()かれ、見事に相殺(そうさい)されてしまった。 クリアは、それを見て体から力が()けていくのを感じていた。 そして、そのまま自分が(ふる)えていることに気がつく。 「あの斬撃すらも……。ま、まさか……こ、ここまで力の差があったのですか……?」 ただ刀を持って立ち()くすクリアへ、ストリング皇帝は声をかける。 「クリア·ベルサウンド君。君は私と向き合ったときからすでに負けていたのだよ。自分と相手の力量(りきりょう)()(はか)れない者に待つのは敗北の2文字、つまり死だ」
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