ふたりのクロイツェル

失踪

だがしかし、貸倉庫から発見されたバーベキューの串には、使われた痕跡は見られなかった。
同じように、隣に置いてあった小型のハンマーには金属を穿った時に出来る細かな窪みはなく、全くの新品状態で、使われた形跡はなかった。

　脳や頭蓋内の感染予防のために、脳外科では高い無菌状態を保つ必要がある。

そのために、簡易的な滅菌のために串をバーナー等で熱処理したのであれば、串は熱によって変色するだろうが、その痕跡はなかった。

煮沸消毒なら、少なくともそれを煮るための大きな鍋がいる。

どちらにしても、現場でそれらの操作をしたかどうかは別にしても、その施術者はおそらく、何度もその手術経験がある人物なのであろう。

実際に、原草凌馬には、感染症の兆候は見られていない。
それだけ、その手技に慣れていると言うことだ。

・・・・きっと、貸倉庫から見つかったバーベキューの串とハンマーはフェイクなのだろう。

そいつは、禁忌の外科手術を、きっと今もどこかで闇に紛れて行っているのではないだろうか。

　そんな中、都内に近い湾岸部で、身元不明の男性の水死体が発見された。
その水死体のスーツの胸元のポケットから、医療で使用する小型の器具が長方形のケースに入れられていたのが発見されたそうだ。

今回の事件との関連性も囁かれていたが、確固たる証拠は見つかっていない。