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カナデとの旅行では、娘が飛行機を怖がらないかと心配だったが、私の心配をよそに、娘ははしゃいでいた。
合計12時間以上のフライトは、思った以上に短い時間に感じられた。
二月のベネチアは、日本とそんなに気温の差は感じられなかった。
昨日は観光バスで主要スポットを周ったが、今日は謝肉祭の様子を水面を滑るゴンドラでのんびりと眺める。
初めて乗ったゴンドラと言う乗り物に、娘は興味津々だった。
ゴンドラが揺れるたびに広がる波紋に、喜びの声をあげていた。
謝肉祭のお祭り騒ぎの熱気は、さらに加速していた。
人混みに紛れて、不思議な仮面を被り、赤と白のストライプの中世風の衣装を纏った男性が、バイオリンを路上演奏しているのが聴こえる。
曲は、ベートーベンのあの曲・・。
美しい音色で、そっと憂いを包み隠すようなこの音色・・
でも、どこかまるで、娘の花音に聴かせるかのように優しくもあった。
忘れるはずもない。
聴き間違えるはずがない。
これは、セイヤの音だ。
・・だが、ゴンドラはその音を無視して緩やかに、確実にセイヤから離れていく。
「停めて!!
お願い!!
停めて!!」
と、そう叫んで、娘を抱き抱えて船着き場で停泊したゴンドラを飛び降りて陸に上がる。
階段を登ることさえもどかしい。
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