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それから少し歩いて、ウインドウショッピングしながら、展示会場まで歩いた。
着いた先は、街の中央にある文化博物館だった。大正モダンを思わせるレンガ造りの建物は、それ自体が重要文化財となっている。
この建物は、2階と3階部分が展示室となっており、1階が演奏会場となっている。ノスタルジィな雰囲気を好んで、1階の会場を演奏会に使いたがる音楽家も多いのだが、人気ゆえに3年先まで会場の空きがない。
この会場を使えるのは、人気のある演奏家か、大御所の先輩方が大半となっている。
だから、私らのような若手で名の知れていない音楽家が、自分達の演奏会にこの会場を使うことはまずない。
展示会場は、3階にあった。
建物の外側に増設されたエレベーターに乗り、扉が開いて降りた先には、壁一面の大きな風景画があった。
描かれているのは、どこの風景なのだろうか。
たくさんの赤い花を着けた蔓薔薇が、アーチ型に描かれ、その先に見える噴水が陽の光を浴びて、プリズムを作っている。
そして、そこにペガサスと戯れる少女。
現実の風景を留めつつも、幻想的なアクセントが、その世界観をよりリアルなものにしている。
私がとても気に入ったのは、会場中程にあった、黄色と蜜柑色と白色を基調とした絵だ。菜の花の、黄色い花のみを摘んで集めて、それを両の手のひらに載せている。
これは誰の手なのだろうか。
柔らかそうなキレイな手だ。
今から本格的な冬を迎えるいまの季節に対して、この春を思わせる色調が心を暖かくする。
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