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彼が見つめていたであろうクリムトの絵がやや傾いていた。
矢内先輩は立ちあがり、その絵の額をずらしてみると、そこにはタテヨコ10㎝程度の奥が深い四角の空洞が、縦並びに3つあった。
「これは・・」
そこには、いくつものビニール袋に小分けされている白い粉が見えた。
「黒田・・
麻薬捜査官にこの事を伝えろ・・」
「その白いのは、危険薬物・・ですか?」
「多分な、そうなんだろうな。
これだけあれば、かなりの人数を廃人にできる。」
私は、殺人だけではなく、危険薬物が絡んでいることに、深く動揺した。
あまりにも、私が生きてきた世界とは異なる。
闇が深すぎる。
私が動揺しているのを悟ったのか、矢内先輩は、
「一旦、鑑識と麻薬捜査官に任せて、署に帰る。」
そう言った矢内先輩の後ろを着いていきつつ、邸宅を後にした。
パトカーに乗り込んだが、あの光景と異臭とが私の脳の奥を刺激する。
「ごめんなさい。先輩、ちょっとクルマ停めてください。」
路肩脇に停まったパトカーの助手席のドアを開けて、胃の中身が空になるまで嘔吐した。
「まぁ、はじめてならしょうがないよな。
お前はよく頑張ってるよ。」
パトカーの窓を開けて、私の背中に向けてボソリと言う声が聞こえる。
胃の中身を吐ききって、呼吸が落ち着いてから、またパトカーは動き出した。
口の中が酸っぱいのと臭いのとで、まだ気分が悪い。
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