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黒田 美貴(クロダ ミキ)
「なんで、警察官なんかになるかなぁ?」
そう言って、私を訝しそうに見る奏は、目の前のキャラメルフラペチーノを口に運んだ。
どこにでもあるチェーン店のカフェの一角で、背の高い椅子に座ってそう言う彼女の声は、声楽家らしくとても澄んだ音色だ。
彼女の名前は、佐熊奏。小柄でかわいい。それに、声楽科だから、演奏会には舞台衣裳と楽譜だけ持っていけば良いのは、ピアノ科の私と一緒だ。
彼女が歌う、モーツァルト作曲の魔笛の『夜の女王』は、とてつもない魅力を持っている。
だから、あの鬼気迫る歌声と、このかわいい容姿とのギャップがすごい。
「う~ん。
だって、すごくない?
事件を解決するんだよ?
警察官内でも、ブラスバンドやってるしさ。そう言うのも楽しそうだしさ。」
そう言った私の目をまじまじと覗き込んで、ため息混じりに、
「・・あんた、ピアニストじゃん。ブラバンでは出番がないじゃん。」
と言ったのだった。
「あ、そうだったね~」
と、とぼけてみせた。
「あんた、これからすごいピアニストになると思ってたのにさ・・
でも、いつか、私の伴奏してよね。」
そう言った奏に、
「もちろんだよ。
警察官としても頑張るけど、私、ピアニストとして腕が劣化しないようにしないといけないね。」
と言って笑って見せた。
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