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静夜の妹の名前は、黒崎愛。
かつて、天才ピアニストと言われた少女だ。
ショパンの英雄ポロネーズの後で雨だれを見事に弾きこなしたその演奏会後に、行方がわからなくなった。
舞台裏から通じる控え室には、彼女の普段着がそのまま置かれていた。
子ども用の携帯電話も、彼女が普段履いていたお気に入りのピンクのシューズも。
監視モニターには、自分の出番のすぐ後で、控え室にはよらず、控え室横のトイレに入り、しばらく後にそこから出てきたことも確認されている。
しかし、その後の消息は一切不明であった。
舞台衣裳である水色のふわふわのドレスを着た状態のまま、忽然といなくなった。
その直後に、当日のどしゃ降りの雨のせいで、漏電が原因でホールの全ての電源が一時的にダウンした。
しばらくして予備電源で電力を賄いつつ、トラブルは回避された。
そんな右往左往するなかで、黒崎愛の外部への痕跡も皆無だった。
彼女の演奏の前後より父親は舞台裏におり、母親は控え室で彼女の舞台衣裳から普段着への着替えのために、そこで彼女の帰りを待っていた。
両親は二人とも、場所的に一番彼女に近い場所にいた。
しかし、演奏後は両親も彼女の姿を見ていない。
足取りが掴めないまま、数日が経ち、人々の彼女を気遣う声は、いつの間にか犯人への怒りへと変化していた。
そして、マスコミはこぞって疑いの目を彼女の両親に向けた。
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