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その後、我が子の失踪事件の疑いをかけられた父親は、役職を退いただけでは収まらず、職場を追われて、再就職を余儀なくされた。
父親が、世間から隠れるように見つけた再就職先は、こぢんまりとした町工場だった。
母親はしばらくの間は気丈に振る舞っていたが、夫の再就職が決まった頃に、緊張の糸が切れたかのように精神が崩壊し、錯乱した状態で自室の天井からぶら下げたロープに自らの首をかけて、命を絶った。
その時、奇声をあげる母親に恐れおののいていたが、その声が聞こえなくなって、そっと親の部屋のドアを開けて変わり果てた姿を目にした第1発見者は、彼女の2つ歳上の兄の、黒崎静夜だった。
静夜の父親は、怒りと悲しみと恨みに震え、そして、人と話すための言葉を失った。
・・・・黒崎愛が失踪したのは、彼女が10歳の春。
そして、静夜の母親が亡くなったのは、その年の秋だった。
それから数年後、大学生になっていた静夜だったが、その父親は過労と強いストレスが原因で、静夜の母親と同じように死亡した。
だから、今の静夜は天涯孤独なのだ。
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