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当時は、静夜とは離れたある田舎町で暮らしていたが、静夜と同じ小学生であった私にも、その事件のことは知っていた。
そして、私の親が、マスコミの影響で黒崎家の両親に疑いをかけて真犯人であることを確信するかのように、テレビを観る度にそこに映し出される黒崎家の両親を罵倒していた。
まだ、両親が犯人だと言う証拠もないのに。
そして、
「黒田美貴!!
次はお前がさらわれるんだ!!」
と、小学校に行けば意地の悪い男子数名から言われていた。
理由は3つ。
私も黒崎愛と同じように、ピアノを習っていたこと。
私の髪型が、黒崎愛のように長かったこと。
私の名字が黒田で、黒崎と似ていたこと。
であった。
ブラックユーモアの感性の欠片もない、ただの虐めの発言。
面白がって、からかう生徒の男子達に強い憤りを覚えていた。
しかし、黒崎愛と私との決定的な差は、残念ながら天才少女と呼ばれるだけの才能はなかったし、それに、当時はそんなに努力家でもなかった。
世間は黒崎愛の失踪事件に飽き、新たな事件を持て囃すようになっていた。
男子生徒からの嫌がらせは、それと共に間もなくして終了した。
だから、私もあの事件の被害者だったのだ。
あの時から、私は長かった髪の毛をショートカットにした。
そして、負けん気から、それ以来がむしゃらにピアノにのめり込んだ。
それから、12年が経ち、私自身も忘れていた黒崎愛の事を思い出すこととなった。
それまで気にもかけていなかった黒崎静夜が、あの黒崎静夜だと知ることとなったからだ。
静夜の音楽にどこか陰りがあるのは、きっとあの過去のせいだ。
そして、年月を重ねた今でも尚、黒崎愛の失踪事件は、未だに未解決のままだ。
私は、静夜に失われた黒崎愛を返してあげたい。
これは、静夜のクロイツェルソナタに心を奪われた私の盲信なのか。
もしくは、人としての正義感からなのか。
それとも、ただの恋心なのか。
静夜のもとに、愛を。
ただ、そう思うようになっていた。
それが、警察官を職業に選んだ理由だった。
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