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目の前の、冷めかかっているロイヤルミルクティーを飲み干した。
同じ大学で同じように音楽を学んで、同じ年度に卒業したのに、警察官の道を選んだ私と、音楽家でいることを当たり前のように受け入れてその道を歩んでいる奏とでは、もう明らかに違う空間を生きてきた人間の雰囲気となっている。
私は、その事に対して、寂しさと共に自分の決めた道が間違っていなかったと、そう思い込もうとしていた。
「美貴ってさ、本当に紅茶好きよね。コーヒーショップに来ても、やっぱり紅茶飲んでるしね。」
「コーヒー、未だに苦くて飲めないんだよね。」
「うん。警察官になっても、そこは変わらないんだね。」
そう言って、笑い合った。
「じゃあ、今日のメインイベント、行こうか。」
金色の金具が付いている赤い革製のトートバッグからチケットを2枚取り出して、奏は続けた。
「ごめんね。本当は元カレからもらったチケットなんだけどさ、あいつフタマタかけてたんだよ!!
だから、こっちから別れてやったんだ!!
・・本当はさ、アイツがこれすごく行きたがっていたから、チケット取り寄せたんだけどね。
美貴、付き合わせてごめんね。」
そう言った奏の瞳は、自分から別れを告げた相手への未練があるような光を宿し、寂しそうだった。
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