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ふたりのクロイツェル
ベートーベンのバイオリンソナタ第9番
『クロイツェルソナタ』
それまでのバイオリンソナタのバイオリンパートは、あくまでもピアノのための伴奏に過ぎなかったが、そのバイオリンの演奏部分をピアノと対等な位置付けにして作曲されたことでも知られている。
言い換えるなら、バイオリンソナタにおいて、バイオリンに自由を与えた初めての曲とも言える。
それによって、後のバイオリンソナタのあり方を変えた曲でもある。
競い合い、ピアノとバイオリンはどちらも一歩も引かない駆引きの中で、緊迫したまま、休符でさえも張り詰めた空気で少しの隙も見せない。
第1楽章は、息つく暇もなく、聴いている側をその悪魔的なまでの魅力に取り憑かせる。
それはまるで、ただひたすら求め合う激しさを伴った愛の渇望のようでもある。
そして、お互いの心の内を少しずつ明し合い、お互いの気持ちを探るように奏でられる第2楽章は、生きる喜びと愛する気持ちを、ピアノに張り合うように、バイオリンが技巧を凝らして歌い上げる。
さらに、自分達のしてきたことは間違いがなかったのだと、安堵の気持ちと共に、喜びに満ちるようにお互いが奏でる第3楽章。
このクロイツェルソナタは、音楽技術的に、高度なテクニックが求められる大変困難な曲でもある。
それゆえに、奏者も観客も、この曲の魅力の虜になるのだ。
尚、クロイツェルソナタの名前の由来は、バイオリニストのロドルフ・クロイツェルに捧げられたために付けられたものであるが、クロイツェル自身はこの曲を好まず、一度も演奏することはなかったと言われている。
また、トルストイが、この曲に触発されて書いた、この曲と同名の物語も有名である。
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