そのまま自然にしてください

4/14
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「ここです。あまり綺麗じゃないんですけど・・・どうぞ。」 2階建ての、こじんまりとした家だった。 彼は鍵を回し、どうぞどうぞと私を先に入れようとする。 玄関は空っぽ きっとここには  彼だけが住んでいる。 電気がつけられ、視界が開けると 階段と、リビング?のような扉があった。 「あの、上着・・・」 「大丈夫です」 私なんかに気を遣う必要なんて  元からなくたっていいのに。 奥へ進められた私は、終始無言だった。 人をあげることに慣れていないのか、彼の動作はぎこちない。 だったら呼ばなくてもよかったのに。 「今 暖房つけますね。」 エアコンの起動音が鳴り響く。 薄い木材柄の茶色を基とした部屋 小さなカントリーキッチン カーペット 一人暮らしには、ちょうどよい空間だろう ふと 壁にいくつかの直角図形が並んでいるのに気づき、視線が止まる。 それは  写真だった。 写真が洗濯バサミのようなもので紐に繋がれ、それがいくつも連なっている。 風景写真のようだが、場所は分からない。 「それは駅前ビルの屋上から撮りました。」 彼がティーカップを2つ運んで戻ってきた。 いつの間にか私は、写真に近寄っていた。 この辺りの街並み いつも見ている風景のはず なのに 違って見えた。 建物一つ一つが黒いシルエットになって 夕日からの光が模様を描くように  映える ゴーストタウンのような静寂さの中に、優雅な時間の流れを感じる風景
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!