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良かったらどうぞ と、テーブルに置かれたカップ。
茶葉の深い香りが部屋全体を行き交う。
毒が入っていると想像したのもつかの間
私には関係ないことだと
素直に受け取ることができた。
私のようなものが 他者からすすめられた紅茶を味わうなんて・・・私にとっては、滑稽のなにものでもなかった。
「にゃー」
窓から消え入りそうな声。
黒猫が、闇夜にオッドアイを輝かせていた。
「・・・猫は 平気ですか?」
「はい」
彼が窓を開けると、それはぬるっとした足取りで入ってきた。
「水菜とサバ缶が好きなんです。」
彼は慣れた手付きで、冷蔵庫から水菜を取り出し、小さな皿に並べていた。加熱後なのか、しんなりとしている。
皿の中央にサバをあけ、差し出すと、猫はくちゃくちゃと咀嚼音を鳴らして食べ始めた。
「・・・あ、シャッターチャンス」
彼はカメラを手に取ると、猫の前にうつ伏せになり、カメラを構えた。
猫が視線を下に向けたときに、シャッターを押す。
「タイトルは 『夢中』・・・ちょっと違いますかね。」
彼は一人 愛しそうに猫を見つめていた。
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