そのまま自然にしてください

5/14
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
良かったらどうぞ  と、テーブルに置かれたカップ。 茶葉の深い香りが部屋全体を行き交う。 毒が入っていると想像したのもつかの間 私には関係ないことだと 素直に受け取ることができた。 私のようなものが 他者からすすめられた紅茶を味わうなんて・・・私にとっては、滑稽のなにものでもなかった。 「にゃー」 窓から消え入りそうな声。 黒猫が、闇夜にオッドアイを輝かせていた。 「・・・猫は 平気ですか?」 「はい」 彼が窓を開けると、それはぬるっとした足取りで入ってきた。 「水菜とサバ缶が好きなんです。」 彼は慣れた手付きで、冷蔵庫から水菜を取り出し、小さな皿に並べていた。加熱後なのか、しんなりとしている。 皿の中央にサバをあけ、差し出すと、猫はくちゃくちゃと咀嚼音を鳴らして食べ始めた。 「・・・あ、シャッターチャンス」 彼はカメラを手に取ると、猫の前にうつ伏せになり、カメラを構えた。 猫が視線を下に向けたときに、シャッターを押す。 「タイトルは  『夢中』・・・ちょっと違いますかね。」 彼は一人  愛しそうに猫を見つめていた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!