第一章

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これから運動をするのだから、まず腹ごしらえをしなければ。 そこで自室の扉を開き共同スペースにでる。 すると、丁度帰ってきたのか同室者らしき人物と鉢合わせた。 同室者らしき人物は俺を凝視している。 しばし見つめ合い気づく。俺、隊服のままだわ。先ほど、団長にバレたら…なんて、腹をくくったはずなのに着替えることを忘れてしまうなんて、痛恨のミス。笑うしかない。 「な、なんで軍の方が……?」 彼の目には、不安の色が浮かぶ。長身痩躯な彼は、茶髪の色素の薄い目でウチの副と少し雰囲気が似ている。 まあ、大丈夫だろ。 「……急で驚いてるとは思うんだけど、まず、怪しいものじゃないから。」 まあ、素直に全て話した方が、この先楽だろう 。 特に国王や理事長からも口止めされてないし。 ん?されてたっけ?知らん。 それに、これは俺の勘だが、コイツは口が堅そうだ。 「少し今時間ある?ちょっと色々君に説明したいことがあるんだ。」 「は、はい。」 コイツ爽やか真面目君って感じだけど、話しやすいなあ。いいな、俺もコミュニケーション能力高くなりたいわ。 「あ、敬語じゃなくていい。多分同い年。」 「え!?てっきり年上かと…」 「はは、身長的にはよく年下に見られるけど。」 「じゃあ、遠慮なく………。立ち話もなんだし、座ろう……、か?」 実に気まずい形でソファに座り、二人で向き合うような形になる。 まず何から話すか決め、目の前の相手の名前すら知らないことに気づいた。 「まず、自己紹介からね。俺はシキ・シノノメ。第七師団三番隊隊長をしている。」 「第七師団三番隊!?あの、神出鬼没で名だたる麻薬密売組織や、国際犯罪組織を次々と根絶やしにしているあの!?」 そういえば、最近は戦争もないし、そんなことばかりやっていた気もしなくもない…。 自警団というより、公安みたいな仕事ばっかりな気もする。 「しかも、その隊長って…。筋肉累々とか、冷血漢とか、血も涙もない鬼とか、巨大な熊を一撃とか…」 「まあ、噂だからね。っていうかそんなにウチって噂になってるんだ?第一師団の方が花形だよ?」 「いやいや!その正体不明!そのくせ活躍する頻度が高い隊の方がみんな気になるに決まってるよ!」 と、少し興奮した様子で語るコイツ。 へえ、そうだったんだ…。知らんかったわ。 「まあ、ウチの噂はどうでもいいんだ。まず君の名前を聞いても?」 「あぁ、ごめん。俺はシノ・エレクアント。実は第七師団の三番隊には以前から興味を持っていてね、ファンなんだ!何度も隊のシステムにハッキングしてるんだけど、全然ダメだっ……あ。」 「ほう……?ウチの隊にハッキング?いい趣味してるね。」 「い、いや、2回だけ!!さ、3回だったかな……。」 「…ふ、まあいいよ。ウチには優秀なシステム担当がいるからね。」 ちなみに、そのシステム担当とは副のセイのことである。そういえばこの前随分手のかかるハッカーがいるとぼやいていた気がする。 「まあ、俺がここにいる間は治外法権だと思ってもらっていいよ。じゃあ本題に入っても?」 「あぁうん。ごめんね。どうぞどうぞ」 「俺はこれから一年任務のために、自分の身分を隠してここに転入する。 今は五月だから、微妙だけど、遅めの新入生って感じかな。 まあ今日これから第七師団三番隊隊長として練習試合に参加するんだけど、俺地味だしなんとか隠せると思ってるんだけど、」 「ちょ、ちょっと待って!!」 「…なに?」 「そんな大事なこと、俺に言ってよかったの!?俺が周りに言いふらしたりすると思わないの!?」 「言いふらすの?」 「いや、しないけどさあ……。」 「じゃあいいじゃん。」 「……シキって変人とか言われたりしない?」 「…む。失礼な。」 まあ、言われるけど。 だが、実際コイツは本当に言いふらしたりしないだろう。 予想だがコイツは頭がキレる。 コイツのハッキングの能力がどれくらいあるのか知らないが、ウチの副を手こずらせるくらいだ。 こっちの浅い情報くらい仕入れてるはず。 今回のことが万が一漏れた場合のことを考えると確実に黙っていた方が利口だろう。 …まあ情報が漏れた場合、俺もちょっとまずいだろうけど。 「それで、任務とか詳しいことはなにも聞かずに、俺にある程度の協力をしてほしいってこと?」 「別に協力してもらうことも特に今のところないと思うし、まあ絶対とは言い切れないんだけど。 うーん、敢えて言うなら、俺と友達になってほしいかな。」 「友達?」 「そ。俺さー、友達っていないんだよねえ。」 そうなんです。お恥ずかしながら友達、いないんです。 どっちかと言うと、セイは相棒だし。俺を兄貴のように慕ってくれる奴も居るけど、大体の奴らは、襲いかかってくる。毎日。別に殺す気があるとかそう言うことじゃないけど。 それがあいつらの愛情表現なのか? やだわ。そんな愛情表現。 毎回殺されそうなんですけど。 シノの様子を見ると、意表を突かれた、という顔をした後に、なにか、堪らないとでも言うように微笑んだ。 …イケメンはどんな表情をしても似合いますね。 「いいよ。俺も友達少ないし。」 「えっ、お前友達多そうなのにな。」 「うーん、この学校ってちょっと不思議でさ」 「ふうん?」 「うーん、なんていうか、ここ男子校じゃん?だからかわかんないけど、男の性的対象?恋愛対象?が、男も範疇内っていうか。それが当たり前っていうか。」 「 …うん?」 「それで、特に成績上位者とか、顔がいいヤツとか人気があって、俺は成績上位者だからかあんまり話しかけてくれないんだよねえ。」 要するに、ゲイやバイがたくさんいるよ、と。 多分コイツの場合、成績うんぬんではなく、顔がイケメンだからだとは思うが。 「へえ、成績いいんだ?」 「まあね。一応努力したし。」 なんというか、コイツの場合成績上位、ということが嫌味に聞こえない。 常に爽やかだ。くそぉ……。イケメンが……。コイツ、ウチに欲しいなあ……。 「じゃあ、…『全校生徒に告ぐ。全ての業務、部活動の活動をやめ講堂に集まりなさい。練習試合を行う。繰り返す。~~~』 ここで、廊下の方で放送が鳴り練習試合の開始のアナウンスがされてしまった。 むむ、腹ごしらえできなかった…。 「あ、シキがさっき言ってたのってこれ?」 「そう、これ。」 「じゃあ講堂に案内するよ。」 「あ、うん。お願いするわ。」 お腹減るよなあ………
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