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その日の午後ーー。
雄は遅くなる前にと、預かった菓子折を持って空斗の楽屋に向かった。その間、鳳炎もいたりするのだがーー。私を巻き込まないで下さいとばかりに、小型ドラゴンのままで付いてくるのは止めてほしいもんだ。
「部屋で待ってればいいのに」
けど鳳炎は小さく首を振り__
「あ、噂をすれば雄君じゃない?」
「え? あっ、ムーさん」
ひょっこり休憩スペースから顔を出したイケメン俳優こと、ムー=モーガン。雄を手招きで呼び寄せると、そこにはストームやアレン、空斗。それにムグルまで顔を揃えていた。
「ほんまや」
「噂すれば影ネ」
「雄兄、お疲れ様です」
「鳳炎連れて何処に行くつもりだったの?」
「空斗の楽屋だよ」
そう言って、おしるこ片手に駆け寄ってきた空斗へ雄が菓子折が入った紙袋を差し出す。
「俺の監督が世話になってるからって」
「えーっ!? そんな、俺の方が雄兄の世話になってるのに」
「皆で食べれるよう、チョコじゃなくて煎餅にしたとか言ってたよ」
「それは助かるな~」
「ちょうど塩気が欲しかったところネ」
紙袋の中身を確認する空斗を横目に、ムーとアレンも嬉しそうに言った。恐らくバレンタインが近いこともあって、甘い物を口にする機会が多いのだろう。
「近いうちに挨拶に行かなきゃな」
「それならホワイトデーの時に行ってやって、喜ぶから」
「分かりました」
「ところで何の話で盛り上がってたの? こんなところで」
自販機前の休憩スペースで、ひしめくように彼らが集まってるのは珍しいことだ。
これは違和感なくバレンタインのことを聞き出すチャンスだと思った雄は、ポケットから小銭を出して居座る構えを見せると、早速ムグルがにこやかに教えてくれる。
「そりゃあ勿論、バレンタインだよ。空斗君、凄いんだよ。貰ったチョコをその日の内に食べきっちゃうんだって」
「へー」
「傑作なんは、エビチリチョコやな」
「えびちりちょこ?」
「空斗のエビチリ好きがファンに漏れたネ」
雄がhotココアのボタンを押した瞬間、ストームの思わぬ名詞にオウム返しで尋ねると、アレンが事の真相を暴露。聞いて良い話だから言ってるんだろうが、その話には続きがあった。
「多分本命チョコなんだろうけど、海老にチョコとチリソースがコーティングされれた物がファンから届いたらしいよ」
「マジで?」
「さすがに色が可笑しかったんで、裏技を使っちゃいましたけどね」
「裏技?」
ムグルから話を聞いた後、空斗本人から結末を聞いた雄だが__。処分以外の裏技とは?
返答の仕方によっては、ベルに報告しなければと思ったが……。空斗が意味深に黒い手をヒラヒラさせた。
「あー、なるほどね」
知ってる読者もいるだろうが、空斗の能力にブラックイーターというものがあり。噛み砕いて言うと、ブラックホールの使い手である。
「ファンには内緒にしとけよ」
「勿論です」
幾らファンから受け取った物とは言え、人間限界という物がある事を重々弁えている雄。
同情するよう苦笑いを溢しながらも警告すると、空斗は自販機からココアを取り出して雄に献上してみせるのであった。
【つづく】
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