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「それにしても本命チョコが貰えるなんて、羨ましいわぁ」
「そうかな?」
本命チョコに夢見るストームに対して、ちょっと迷惑そうな反応を見せるムグル。一見ノリが悪そうな印象を受けるかもしれないが、ムグルにはムグルなりの悩みがあった。
「そう言えば、今年も貰ったの? レナからの本命チョコ」
「貰ったよ。見た目普通なのに、噛むと悲鳴をあげるチョコ」
「どんなチョコやねん」
「マンドレイク?」
「よく生きてたネ」
まだ現時点では本編に登場してない人物なので、雄の質問に答えたムグルに好き放題突っ込みを入れるストーム、空斗、アレンの3人。
ムー至っては、苦笑いを溢し__
「そう言えば、ムーさんも毎年恒例の本命チョコもらったの? 監督情報によると、奥さんのチョコしか受け取らないらしいね」
雄から思いもよらぬところで奥さんの話を振られ、嬉々とした様子で目を輝かす。
「よくぞ聞いてくれた✨ 黄色い小鳥のモチーフがついたピンクの包みに入っていたよ。メリーからの愛のメッセージは『愛するあなたへ想いを込めて』って短文だったけど、このチョコにはたっぷりと愛情が詰まっていたんだ!」
しかも止まらぬ奥さん自慢ーー。
どうやら空斗とアレンは、そのことを知ってたようで。(あちゃ~)とばかりに顔を覆った二人の様子を見た雄は、触れてはならない話題をふってしまった事に気が付く。
無論だからと言って話題をふってしまった以上、急に止めろとも言えず……。雄は暫くムーの自慢話に耳を傾けるのだが__
「甘いものが苦手な俺のためにカカオ80%のチョコを使用。しかも珈琲豆をチョコでコーティングしてくれていたのさ。俺は大の珈琲好きだからな。しかも、わざわざ俺の故郷の豆を取り寄せてまで…。ああメリー、君の優しい心遣いだけで俺はもうお腹いっぱいだよ。何十年も一緒に居るけど君への愛は増すばかりで(以下略)』
自分の世界に入ってしまったようで、もはや誰に語ってるのか分からない。
そこで気転を利かせたを空斗が、唖然としていた雄に話題を振る。
「ところで、雄兄の方はどうなんですか? 本命チョコ」
「俺は貰うより作る方が好きかな」
「ワイ、貰ったで」
「ボクも貰ったよ」
雄の返答に恋バナを期待したいところだが、ストームとムグルの解答からして、それが何なのか分かってしまった<Black eater>の3人。お互い困った顔で見合わせて(さすが鳳伝のヒロイン)と思ったが、さすがに失礼に値するので。ムーが突っ込み封じとばかりに話題を変えてしまう。
「あっ! そう言えば、ベルにチョコレート貰えたのかい? 行くところ、行くところ先回りしてたよな? アレン」
『え?』
思わぬムーの発言に、一瞬(新手のストーカーか?!)と疑った<鳳龍伝説>メンバーだか__。アレンは即座に否定する。
「違うネ! もし料理の上手くないベルがチョコを手作りなんてしようモノなら一大事ヨ。被害者が出る前に未然に防いでやってるだけネ」
「えっ、そんなに酷いの?」
ムグルにバレンタインを贈ったレナは、味が美味い代わりに何かしら不思議現象があるレベルなのだが……。
ベルの場合、味に問題があると言うことか?
アレンが言う事を疑う訳ではないがーー。
雄が空斗の意見を窺うと「そんなことないよ」と否定する後ろで、ムーが両手で小さくバツ印をしてみせた。
ーーどう考えても訳有りのようである。
「それにしても青春だな」
「えー、毎年毎年食い意地張ってるだけだろ?」
『毎年?!』
それは、それで食い意地だけの問題ではないような? <鳳龍伝説>のメンバーは、揃って声を上げて複雑な表情を見合わせる。
何故ならアレンの気持ちに気付いている<Black eater>メンバーが、すでに恋愛経験済みのムーだけのようで。アレン本人は、あくまでも犠牲者を出さないためなのか。「継続が大事ネ!」と強く訴えていたりする。
「じゃあ毎年ベル姉は、そんなアレンに?」
「うん。毎年市販品で、去年なんか持ってたチョコボール三粒。なんて事もあったけど、ちゃんとアレンにプレゼントしてるよ。アレンはチョコを食べ過ぎると鼻血を出すから」
「へ、へぇ;;」
それにしては、対応が雑なような気もするが……。それを言っては、アレンが不憫のような気がした雄は、質問に答えてくれた空斗に何とも言えない表情を浮かべて相槌を返すと、「今年も貰えるといいね」と当たり障りの無い言葉をかけて、時間を理由にその場から立ち去るのであった。
【つづく】
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