楽屋劇場/マドンナのチョコは誰のモノ?

6/7
前へ
/7ページ
次へ
それから数日後ーー。 監督/鷹望のお使いで差し入れを持ってきたベルは、周りに怪しまれる事なく雄の楽屋に入室。早速挨拶代わりにと、預かってきた差し入れを雄に渡すのだが……。 「自己主張すげぇな」 「トロフィーかと思いました」 包み紙を開けてみると、30cm程の高さのある立体な鷹望チョコが姿を現し、雄と鳳炎が感想を述べた後に食い方に悩む。 「コレ砕いて良いものなのかな?」 「中に本物が入ってるサイズじゃなくて良かったですね」 「鷹の爪が入ってるとか聞いたけど」 それがどんなモノなのか知らないのか。 ベルの発言を耳にした瞬間に、黙って食うことを諦めた雄と鳳炎。 ていうか、差し入れと言えるのかモノかすら謎になったところで、魔除けの如く貰い受けたチョコを棚に飾って本題に入る。 「ところで空斗から聞き出せた?」 「うん、まぁ……。今のところファンのチョコしか受け取ってないみたいだから、勝負はバレンタイン本番じゃないかな」 「手作りを考えておられるんですか?」 そう言って鳳炎が茶菓子として差し入れて来たのは、少々歪(いびつ)なチョコスティック。質問に「まぁね」と軽く答えたベルは、もしやと思って出されたチョコを凝視してから確認を取る。 「ねぇ。コレ、ファンの子から貰ったもの?」 「いいえ、御主人が手作りしたものですよ」 「味見がてら食べてみて」 するとベルは、恐る恐るチョコを摘まんで一口噛ってみて驚いた。確かに茶請けとして出すには歪な形だが、サクッとしたビスケットの食感の後に広がるとろけるようなチョコの味。先程まで冷やされてたから固いイメージで口にしたようだが、パクパクいけちゃう食べ易さが癖になってしまう。 「ど、どうかな?」 ベルが手にした一本目間食後、反応の無さから(甘すぎたかな?)と心配そうに感想を求める雄。 ここで何故鷹望監督が彼を勧めたのか理解したベルは、両手を組んで拝む。 「雄姉様✨」 「何故そうなる」 友チョコの余りを味見と称して茶請けにしただけで、尊敬の眼差しを向けられた挙げ句に呼び名まで変更されるとは__。 「女子力が高いのね✨」 「いや、そんなことはないはずだけど」 「材料から教えてくれる?」 「板チョコ4枚に生クリームが100cc、ビスケットはDA●SOに売ってあるもので」 「サプリとか入れないの?」 「そこは愛込めれば十分です」 先日アレンとムーが密かに料理の腕前を否定してきたのは、恐らく余計なものを入れてしまうところからくる失敗だろう。 分量と作り方とは別に、チョコを湯煎で溶かす。ボールは金物。火は厳禁。ビスケットは砕き過ぎてもいけない事や茶請けとして出したのは、見栄えをよくするためにカットした部分の切れっぱしである事を説明した。 「後生クリームと一緒に混ぜる時は、泡立て器を使って。とにかくツヤが出るまで混ぜるのがポイントだよ」 「分かった。結構作り方単純なのね」 「それと出来た分だけ箱に詰め込むより、こうクロスさせて。高価に見せたいのなら、パラッと金粉まぶせば綺麗だよ。ほらっ」 言葉だけじゃ分からないだろうと、スマホのアルバムの中から記念に撮影した一枚をベルに見せると、「参考になる✨」と言ってくれたので。雄は気分をよくして、可愛いチョコ用のギフトBOXが売ってる店まで彼女に教えた。 「何から何まで有り難う、雄姉様✨」 「そこはせめて雄兄にしてな💦 それより今年は、本命の空斗にしか贈らないつもりでいるの? アレンが待ち伏せしてまで欲しがってるとか、ムーさんから聞いたけど」 「いつもの事よ」 ベルは、特に気にかけてない様子で言った。 まぁ雄も空斗の話からして、アレンにチョコをあげるのは同情の一貫とは思うが……。 「アレンの事は嫌いだったりするの?」 「それは無いわ。LOVEとlikeの違いだから」 「良かった。しつこいようなら、俺から注意した方が良いのかな? と思って」 「え?! あ、大丈夫よ。ただ食い意地はってるだけだし」 「そうかな?」 アレンが必死に言い訳をしてたところからして、どうも食い意地だけの問題じゃなさそうだが__。 「それじゃあ切れっぱしだけでも恵んであげたら? 最近のギフトBOXは、可愛いけど小さいから入りきれないと思うよ」 「そうするわ。朗報を楽しみにしてて、絶対渡してやるんだから!」 雄にアドバイスを貰ったベルは、やる気充分な様子で拳を握りしめると、満面な笑顔で楽屋を退室。 それを見送った雄は、後日ベルが報告しに来る前に風の頼りで彼女らしい失敗を耳にしたそうだが__。 真相は、陰ながら経緯をバッチリ撮影していた鷹望監督のみぞ知る。 尚、差し入れとして受け取った鷹望特製チョコは__。 「食わへんのか? コレ」 「感想言ってあげないとマズいんじゃないの?」 「いやぁ、天罰が下さりそうでさ」 「そんな大袈裟な」 「本命やったらどうするんや?」  チョコの中身を知らないストームとムグルに言われ、たじたじな様子で雄が渋っていると、気転を利かせた鳳炎が二人に勧める。 「よろしければ御二人で味見して頂けませんか? ビターでも食べれませんし、中に何か入ってるチョコも御主人苦手なので」 「そうやったな」 「せっかく貰ったモノだし、感想言わなきゃ失礼だよね」  しかし、翼先を割ってチョコを食べたストームとムグルの口から出たのは、火を吹くような辛さだったという。 「鳳炎(そち)も悪よのぉ」 「話のネタにはなると思いますよ」 0868fc05-c9bc-4613-ac86-493dbbd614d1 【おわり】
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加