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研修でロスに来て、早くも一年が過ぎた。
公私ともにめまぐるしい一年だった。
この一年、臨床の現場では簡単な言葉で表現できないような経験をして来た。
手術手技のみならず、患者や医療従事者への配慮や、日米の医療制度の違いなど、異なった視点で仕事を考えることができた。
制度の差や文化の違いがあるので、日米の医療を単純に比較して優劣をつけることは難しいが、アメリカの医療に携わることで、日本の医療の問題点が見えてくる。
さらに研修を続けて、研鑽を磨くことも無駄にはならないとは思うが、俺は組織の中で上手く立ちまわれるタイプでないことが、このアメリカの地でさえ、十分なほど思い知らされた。
どこの国にも嫌な奴はいて、それが指導を受けなければならない上級医だと最悪だ。
嫌味を言われるくらいならまだ我慢も出来ようが、オペ中わざと貶めるような嫌がらせをしたりもする。
そんなとき、すぐに感情が露わになる不器用な俺などは、格好の餌食になる。
こんな俺が、未だ旧体制のしきたりが根強く残る大学病院で頂点を目指すなど、気の遠くなる夢物語に思えた。
名誉と権威のために、陰謀うず巻く大学病院の人間関係などに翻弄されていたら、ストレスで病気になってしまうに違いない。
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