伝わらない『悲しみ』

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伝わらない『悲しみ』

「おーい、起きろー。朝だぞー!」  兄さんが、もう朝ご飯の準備を終わらせて言う。 「あ、あの……。」 「ん?なんだ、口に合わなかったか?」  兄さんは、自分で作った目玉焼きと買ってきた食パンを頬張りながら言う。 「い、いえ……その……。あまり、僕に構わない方が……。」 「ああ、その事か。」  そう言っただけで、何を言おうとしていたかバレてしまう。だって、何度も言った事だから。  サラサラの短い黒髪が綺麗にまとまり、形の良い切れ長の目が凛々しさを引き立たせる。 「アイツらがバケモノって言ってんのは、その……俺だよ。勉強もできるし、運動もできる。モテるし。……顔も良い。」 「それ、自分で言っちゃうんですか……。」  それが嘘なのくらい、分かっている。  それでも、少し安心したんだ。  僕は、忌み嫌われているだけでは無いんだって。愛してくれている人も居るんだって。 「また連れ歩いてる。」 「アイツもひでぇよなぁ。本人は嫌がってるのに無理矢理連れて来てさ、遊ばせて。」  見た目だけで判断し、人をバカにする奴ら。  お前は、どんなに醜い姿であっても心が綺麗だ。誰よりも。そっちの方が大事なのに、なんでアイツらは分からないんだろうなぁ。  僕達に降り掛かる中傷に、そう言って笑い返していた誠。 「キモいんだよ、お前。」 「誠君に近づかないで。」 「バケモノ」  「バケモノ」  「バケモノ」     「バケモノ」  「バケモノ」  何度も言われた事。  本当に自分はバケモノなのかって、バケモノってなんだろうと思って調べた事もあった。ちなみに、こう出たよ。 『異様な姿や形をして化け現れたもの。』 『普通の人間とは思えない能力を持っている人』  だってさ。  それでも、まぁ、ちょっと悲しかったけど辛くは無かった。  でも、やっぱり関わらないで欲しかったな。兄さんにも悪い噂が流れるから。 「アイツもキモいよな。あんなキモいやつと一緒にいても何も思わないんだから。」  耳に入ってしまった、誠の悪口。  悲しかった。辛かった。  でも、誠は僕を離さない。  それが一番辛かったかな。
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