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コーヒーと現実
コーヒーを淹れながら兄さんはある本を持ってきた。
「文字くらいは読めるだろ。」
って。
内容はたしか、差別はなくそう。苦しむ人を助けよう。みたいなやつだった。
「人間って、ばかだよな。自分達でこんな事言っておいてそれを実行しない。ただの綺麗事かよ。それだったら初めっから言うなって……。」
すぐ目の前に差別に苦しんでいる子が居るってのに。
椅子に座り、窓の外を眺める兄さんに、僕は何も言えなかった。
「まっ!俺はいつでもお前の味方だからな!いつでも頼れ!!」
にっと笑いかけてくる誠に、僕ははにかんだ笑みしか返せなかった。
本当は、嬉しくもあり、悲しくもあったから。あと、疑問。
どうして赤の他人、しかも、バケモノみたいな見た目の子を助けるのか。
聞けたかったが、聞けなかった。
聞いてしまえば、この関係は壊れてしまいそうで怖かった。
「て言うか、コーヒー苦いな。」
「やーい、バケモノ!」
「さっさとくたばれー!」
幼い子も、もう少し大きい子も。もっと大きな子も寄ってたかって僕を蹴り飛ばし、殴る。僕は頭を守ってうずくまるしか出来なかった。
「おい、やめろ。」
その場を抑えてくれたのも、誠だった。
「あ、出て来たっ!良い人ぶって酷いことしてる人!」
一人の子供が誠を指差す。
「……おい、ガキ。覚えとけ。」
指差した子の頭を掴み、低い、恐ろしい声で誠は言う。
「良い人ぶって酷い事しているのは、お前らだって事をな。……×××。帰るぞ。」
ああ、ごめんね。僕名前覚えてないから。×××で覚えて。
とにかく、そうして家に戻る。
僕は、なんか怖かった。誠が怒るなんて、滅多にないから。でも、こっちに向けられたのは悲しそうな笑みだった。
「ごめんな。すぐに行けなくて。」
そう言って、僕の額に触れる。
「血、出てる。そうだ、今度髪切ろうな。綺麗にして、見返してやるんだ!」
僕は、泣いた。なんでなんだろうね。今はもう覚えてない。
「え?お、おい、なんで泣くんだよ。俺、なんかやっちゃいけない事言った……?」
突然慌てふためく誠に、僕は笑った。
「こ、今度は、笑った……なんだよぉーどっちなんだぁー。」
と言いながら、彼も笑う。
こんな日が、ずっと続くと思ってたのに……。
現実って、苦くて辛いものだ。コーヒーなんかよりもね。
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