逢斗

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逢斗

 机で縮こまっている紫の髪の子。  バケモノと言われている、かわいそうな子。  弟に、そっくりな子。  親も、兄弟も全て死んでしまった。学校とバイトを掛け持ちでやっているが、まぁつまんない。  でも、そんな日々も逢斗(あいと)が居るから楽しいと思えた。  せっかく作った朝ご飯、ちょっとしか食べてないな。 「あ、あの……。」 「ん?なんだ、口に合わなかったか?」  善人ぶっても、心が善人じゃないと結局悪人だ。  人は、差別を無くそうとか言ってるが、本当に無くす気はあるのだろうか。  苦しんでいる人間を、助ける気はあるのだろうか。もう、俺にはわからない。 「て言うか、コーヒー苦いな。」  お前らが一番バケモノだよ。  人の心も考えず、思った事しか言えない。心が腐り切ったバケモノだ。 ……たしかに、俺は善人ぶってるだけかもしれない。でも、お前らよりはマシだって、はっきりいえる。 「良い人ぶって酷い事しているのは、お前らだって事をな。」 ……痛い。  ああ、もうすぐ俺は死ぬな。  アイツら、次は逢斗を狙うはず。 ……俺は、『良い事』をしたのだろうか。  人は、人数が多い方に加担する。  人数が多い方が正しい。  そうなってしまう。  どんなに気を付けようとしても、勝手にそうなってしまう。  でも、俺は嫌だった。  本当に正しい事を、貫きたかった。  逢斗は、見た目はたしかにヤバイが、心は誰よりも綺麗だった。俺が偉そうに言えないかもしれないが、綺麗だった。 ……せめて、最後に言っとけばよかったな。アイツらに。  バケモノは、お前らが勝手に作った妄想の代物(しろもの)だって。  周りと違うからバケモノだなんて、なんと理不尽な事か。  もし、自分の大事な人間がそんな事言われたらどう思う、と。  ああ、逢斗。  せてめ、もう一度……。
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