バケモノは、レンズの向こうに

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「バ、バケモノ……」 目の前にいる奇怪な生き物に、俺は死を予感した。 俺の三倍はある巨大な体。見た目は人間男性と同じのようだが、パンパンに膨らんだ筋肉は、一振りされればきっと、俺の首なんて一瞬で吹き飛んでしまうだろう。 それだけで十分コイツがバケモノだという証明は出来るというのに。身体だけでは飽き足らず。その顔はもはや人の原型なんてなかった。 一言でいえばトカゲ。 大型でもない限り人に危害を加えない。ペットとしても飼われているくらいの爬虫類が、人間以上のデカい身体を与えただけで、ここまでバケモノになってしまうものなのかと……。今は心底どうでもいい真実に、擦れた笑い声がこぼれた。 あぁ、きっと俺は殺される。 殺されて、バケモノの餌になるんだ。 「クソッ。なんで……なんで俺は、こんなところに来ちまったんだ」 民家一つない森の中で、俺は絶望と後悔に涙を流しながら、死を覚悟し。瞼をぎゅっと閉じた。 ゆっくりとバケモノの手が、俺の方へ伸びてくるのが分かる。 首をもぎ取られるのか?それとも身体を引き裂かれるのか? バケモノの殺し方なんて、到底想像出来るわけがない。 怖い。怖い。怖い。 痛いのだけは嫌だ。 お願いだ。 誰か、誰か……助けてくれ。 「ヨシ、ヨシ」 「……え?」 大きな手が、俺の頭を撫でている。 「イイコ。イイコ」 硬くてゴツゴツした手。爪は大きな鎌のように鋭く長い。 ちょっとでもバケモノの手に力が入れば、きっと俺の頭は潰れるだろうし。握るように指を曲げれば、長い爪が俺の顔を突き刺してしまうだろう。 けれどバケモノは、俺を壊れ物でも扱うように優しく撫でては、しゃがれた声でロボットのように「ヨシヨシ」「イイコイイコ」と、言葉を繰り返していた。 「???な、んで?」 ずっと手に持っていたカメラが、手から滑り落ちて、ガシャンと音を立てた。
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