学園のアイドル

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学園のアイドル

 保健室で熟睡していた貴音は起きて驚愕している。  同じベッドの上で女の子が一緒に寝ているのだ。しかも貴音に抱きしめられて。  何が起きているかわからないが、起こして確かめることにした。 「起きてー」  そう言いながら貴音はその女の子の肩をを揺らす。 「う、う~ん……」  すぐに起きてくれたが、まだ眠気があるのかボーっとしており目が半分しか開いておらず、欠伸をしながら少し涙が浮かんでいる目を手でこすっている。  低血圧で寝起きが悪いのだろうか隣に貴音がいることに気付いておらず、また眠ってしまいそうな雰囲気だ。 「あの~」  貴音は彼女のことを知らないので、恐る恐る声をかける。  でもその声に反応していなくて目も閉じているので、今朝の自分を見ているようだ……と、貴音は思ってしまった。  少女は有栖と違って黒い髪に健康的な白い肌をしている。  有栖と同じか、それ以上に顔が整っていて、美少女と言えるだろう。  話しかけても反応がないので、起こした時と同じように貴音は女子生徒の肩を揺らしてみる。  貴音はもしこれで反応がなかったら放置して教室に戻ろうかと思ったが、目を開けて貴音のことを見た。  すると目を見開いて顔がどんどん紅潮していく。  その顔は火が出るかと思うくらいに赤くなり、身体が少しだけ震えていた。 「わ、私を抱き枕と勘違いした人」  貴音のことを指を指してそんなことを言う。 「え? 抱き枕?」  でも貴音は全然記憶がないからか、頭の中にはてなマークがが浮かんでいる。 「そうだよ。私が寝ていたのに勝手に入り込んできて、抱き枕~とか言って抱きついてそのまま寝たんだよ」  女子生徒にそう言われて貴音の顔から汗が流れてくる。  貴音が寝れたのはこの子が抱き枕代わりになってくれたからということに気付いたからだ。 「えっと、ごめんなさい」  貴音は特に言い訳とか思い浮かばなかったので素直に謝る。  向こうからしたら知らない男に抱き枕の代わりにされたのだし、許してもらえない可能性があるが、謝らないよりかはマシだ。 「まあ、そこまで嫌ってわけじゃなかったから許してあげるよ。寝ぼけててベッドに入ったことすら覚えてないでしょ?」  貴音は「恥ずかしながら……」と呟いていて首を縦に振る。  それどころか保健室に来たことすら曖昧で、まさか自分が女の子を抱きしめて寝るとは思ってもいなかっただろう。 「私の名前は白河可憐(しらかわかれん)だよ。キミの名前は?」  突然自己紹介をされて驚きを隠せない貴音。  許してくれたとはいえ、名前を名乗られるとは思っていなかったからだ。 「俺の名前は高橋貴音だよ。二年一組」  名前を名乗ってもらったので、こちらも名乗らないと失礼だと思い、貴音も自己紹介をする。 「同じ学年だね。私は二組だよ」  自分と同学年というのが少し嬉しいのか、ただでさえ二人の距離が近いのにさらに近づいてきた。  貴音は少し驚いてしまうが、つい可憐の顔を見てしまう。  可憐の顔は先ほどとは違ってもう驚いた顔もしていなく、頬が少しだけ赤いくらいだ。  さっきまで寝ていたためか少し寝汗をかいていて、少し紅潮した顔と汗の匂いが貴音を刺激してしまい、心臓の鼓動が早くなり顔も少し赤くなる。 「そう。それで白河さんは何で保健室にいたの?」  貴音は気を反らすために質問をした。  眠すぎて微動だにしなかったため保健室に連れてこられた貴音とは違い、可憐には体調が悪いなどの理由があるのだろう。  それなのに勝手に抱き枕の代わりにしてしまったので、もし体調が悪いなら謝らないといけないと貴音は思っている。 「え、えーと……」  可憐は顔から汗を流して目を泳がせている。 「サボりなのね」 「あははは……」  可憐は図星をつかれて苦笑いするしかなかった。  でも、貴音だって眠いだけで保健室に連れてこられたので、あまり可憐を責める気にはなれない。 「てかもう昼休みじゃん」  貴音は保健室にある時計を確認して、思っていたより寝てしまったと驚いた。 「俺は戻ってご飯食べてくるね。さっきはごめんね」 「え、あ、うん」  貴音は昼ご飯を食べるために保健室から出ていった。  一人だけの保健室で可憐は少し考え事をしていた。今までにない気持ちで胸がいっぱいだったからだ。 「これはなんだろう?」  自分の胸に手を当てて心臓の鼓動が早くなっているのを感じてしまう。 「高橋貴音くんか……」  貴音のことを考えただけで自然と笑みがこぼれてきて嬉しくなってしまう自分がいる。  これが何なのかまだよくわからないが、貴音ともう一度話してみたいという気持ちがどんどんと溢れてきてしまう。  可憐は二つのリボンで腰まで伸びた髪を一部だけ結んでツーサイドアップという髪型にして保健室を後にした。 ☆ ☆ ☆  貴音は教室まで戻って自分の席に着く。  教室内は昼休みだからかクラスメイトはそんなにいなくて、食堂だったりして他の場所で食べたりしているようだ。  貴音は基本的に有栖と昼御飯を食べているが、今日は教室で食べることにした。 「体調は大丈夫か?」 「大丈夫。心配かけて悪かったね」  貴音は一馬に謝るとお弁当を食べ始めた。  このお弁当は毎朝、有栖が作ってくれるものだ。  基本的に両親が仕事で忙しいために有栖が料理を作ってくれる。 「美味そうだな」 「自慢の妹が作ってくれたお弁当だから不味いわけがない」  実際に有栖は料理が得意で、大体の物は美味しく作ることができる。 「出たよ、貴音のシスコンが」 「家族だから大事にしているに決まっているだろう。だからシスコンではないよ」 「大事だとは思うが、普通はそんなこと言わないだろ」 「そうか?」  一馬の言葉に心底、わからないと言った顔をしている貴音。  それを見て天然のシスコンなのか……と思いながら、一馬は呆れるしかなかった。  貴音は有栖が妹になってからかなり大事にしている。  もし有栖に彼氏ができたものなら認めるつもりはないし、もしかしたら別れるように言うかもしれない。  妹に恋愛感情があるかと言われたらそうではないと思うが、貴音にとって大切な妹であることは間違いないのだ。 「そういえば白河可憐って知っているか?」 「唐突だな」  貴音から妹以外の女性の名前が出てきたので少し驚くが、知っているのか説明してくれる。 「白河可憐はこの学校に通う生徒ならほとんどが知っていると思うぞ。あの容姿だし人気がある」 「そうなのか? まあ俺にはどうでもいいことだけど。有栖じゃないし」 「お前の基準はいつも妹なのな」  貴音は有栖以外の女には興味がなかったが、可憐のことだけは少しだけ気になっていた。  抱き枕代わりにしてしまった罪悪感があり、後で正式に謝りたいと思っているからかもしれない。 「白河可憐は学園のアイドルと言われていて、非公式のファンクラブまである」 「ふーん」  少し気になっているが学園のアイドルと言われていようが貴音にとってはどうでもいいことだ。  いくら彼女が人気があるからと言っても謝れないわけではないから。 「そっちが聞いてきたんだから少しくらい興味を持て」 「一ミクロンくらいは持ってるが?」 「それは少なすぎる」  学園のアイドルと言われる可憐は相当モテるので、告白をかなりされる。  でも可憐にとってはほとんど知らない男子からの告白をされても困惑するだけなので、いつも断っている。  もちろん可憐も高校生なので一般的な恋愛をしたいと思ってはいるが、どの人も下心丸出しで近寄ってくるので、好きな人ができるまでは付き合うとかはしないだろう。 「ちなみに有栖にはファンクラブはあるのか?」  有栖が大事な貴音にとっては気になることだ。  もしファンクラブがあるとしたら近寄ってくる男を阻止しないといけない。 「聞いたことがないな。可愛いけどあの容姿だから近寄り難いんだろう」  それを聞いて一安心する貴音。  これなら有栖に近寄ってくる人が少ないから彼氏ができることはないからだ。 「有栖に彼氏ができたら殺すけどな」 「シスコンは恐ろしいことをサラッと言うな」 「だからシスコンではない」 「もう呆れて何も言えん」  そんな話をしながら昼休みが過ぎていった。
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